英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,establish that...があります。
これは,英文契約書で使用される場合,that以下を「立証する,証明する」という意味で通常使われます。他にもproveなどがあり得ます。
なお,立証責任の問題は重要です。立証責任とは,当事者のいずれかがその負担を負っており,立証責任を負うものが証拠をもってある事実を立証できなければ,その事実が無いものとして扱われ,立証に失敗したものが不利益を被るというものです。
裁判はあくまで過去の事実の有無を証拠によって「想像」するプロセスですから,このように取り決めないと,裁判所の心証として事実の有無がわからないという場面で勝敗を決することができなくなってしまいます。
終局的解決を目指す裁判所ですから,それでは機能不全となりますので,このようなルールが決められているわけです。そこで,どちらの当事者がいかなる事項について立証責任を負うのか(立証責任の分配)が重要な問題となります。
この点,標記の表現は,立証責任を誰に課すのかを定めた条項となることもあるでしょう。しかし,仮に契約書でどちらが立証責任を負うと定めても,必ずしもそのとおりになるとは限りません。
当事者が自由に立証責任を分配できるとしてしまうと,立場の強いものの言いなりにビジネスがコントロールされる危険があるためです。
因みに,英国コモン・ロー上は,その権利によって利益を受ける側がその権利の発生に必要な事実について証明責任を負うと一応考えておいて良いでしょう。ただし,例外はあります。
なお,民事事件の立証の程度については,刑事事件のbeyond reasonable doubt(合理的疑いを超える程度)の立証に比べて,軽減されており,balance of probabilitiesにより決せられるとされています。
つまり,50%を超えてあり得ると裁判所が心証を得れば,その事実の証明に成功したことになります(実際,内心の問題ですからこのようなパーセンテージを述べることに意味はないわけですが。)。
このestablish that...は,英文契約書では,Confidentiality(守秘義務)条項で出てくることがあります。守秘義務の例外となる事情(例えば,ノウハウなどの開示を受ける前に自らが適法に開発していたノウハウなど)を「証明した」場合などという場面で登場します。
If the receiving party establishes that the Confidential Information was developed by itself...(情報受領当事者が機密情報は自ら開発したものであることを証明した場合)などと使用されます。