In one's sole discretion(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,in one's sole discretionがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,「…の裁量により,…の選択により」という意味です。
例えば,売買契約(Sales Agreement)で,商品に欠陥(Defect)があった場合の買主に対する補償方法として,売主が,商品の交換(Replacement)や代金の減額(Reduction)などを選択できるようにしたいという場合に挿入します。
The Seller shall...in its sole discretion.(売主の選択により,売主は…をする。)
などと使用されます。
この文言を使用される側としては,原則として自分から補償の方法を選択したり,要求したりできず,あくまで相手方に選択権があるとよく理解した上で,契約書にサインする必要があります。
反対に,補償をする側としては,代金減額がよいのか,問題のない品と交換するのがよいのか,品目や品数にもよるでしょうから,できるだけ問題が生じた時にフレキシブルに選択できるようにしておきたいという要請がありますから,上記文言を挿入したいという場面は多いでしょう。
そのため,売主側が補償の手段を選択できるとして,in Seller's sole discretionと契約書に記載されていることが多いです。
買主の裁量で補償の手段を選べるという内容に変更するのは難しいところがあります。
というのは,欠陥商品を補修(Repair)すべきか,交換(Replacement)すべきか,代金返金(Refund)すべきかというのは,欠陥品の量や,売主側に在庫があるのか,欠陥の程度により補修ができるのかできないのかなどによって売主の対応に自ずと限界があるためです。
それにもかかわらず,補償の内容を買主が選択できるとしていまうと,上記のような制限が無視されてしまうことになります。
In one's sole discretionがあまりに一方的であり受け入れがたいという内容の場合は,In one's reasonable discretion(合理的な裁量により)として,主観的で全く自由な判断は許さないという内容にすることも考えられます。
また,相手方の裁量で一方的に決めるのではなく,あくまで話し合いによって決めるという場合は,by consultation(協議により)などとすることがあります。
ただ,協議によって合意するのが難しい内容の場合や対応に迅速さが求められるようなケースでは,やはり当事者のどちらかが決定できるようにするのが望ましいでしょう。