英文契約書によくある最低注文数量条項を巡るトラブルとその解決法

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 日本企業の㈱XYZ家具(仮称)があるヨーロッパの国(仮にイギリスとします)のベンダー㈱ABCファーニチャー(仮称)から,あるデザイナーがデザインした高級ソファーを輸入し,日本国内で独占販売することになりました。

 

 英文契約書を作成することになりましたが,その際,最低注文数量(minimum order quantity)(ミニマム・ノルマ)を定めることをベンダー側が要求してきました。

 

 ノルマは,それほど厳しいものではありませんでしたが,毎月単位で最低注文数量が定められていました。

 

 交渉の場面では,㈱XYZ家具は「この程度であれば十分に売れるという市場調査結果がありますので,それほど厳しいノルマではないでしょう。許容範囲内です。」と回答し,最低注文数量条項を承諾したそうです。

 

 当時,㈱XYZ家具としては,①最初の独占販売契約の契約期間が2年と比較的短かったこと,②マーケットリサーチの結果,これまでの単発の輸入販売実績を考えれば,十分に達成できる数字であったこと,③販売実績を㈱ABCファーニチャーにイニシャルタームで見せつけて,契約の長期更新を狙う必要があったことなどから,最低注文数量を受け入れる判断をしたとのことです。

 

 したがって,英文契約書の締結前に特に専門家に相談することもしませんでした。

 

 ところが,その後,為替が円安傾向に触れたことや,大きな卸先である百貨店が倒産したこと,購買層が安くてデザインの良い家具メーカーに流れ始めたことなどから,取引開始から約1年後にノルマを達成できない月を迎えることになってしまいました。

 

 また,その後も上記の負の環境が続くことが考えられたため,㈱XYZ家具としては,イギリス製の高級ソファーの輸入販売から撤退したいと考えました。

 

 そこで,ノルマの不達成を理由に契約を終了したいと㈱ABCファーニチャーに申し出ました。

 

 ところが,㈱ABCファーニチャーは,「契約はあと1年残っている。それまでは続けて貰う。ノルマ分を今月以降も購入してもらう。」と主張して来ました。

 

 ㈱XYZ家具は慌てて契約書を引っぱり出して条項を確認しました。

 

 契約書には,イギリス法を準拠法とするとされているほか,ノルマについては「達成できない場合には,ベンダー側が解除できる」と書いてありました。

 

 そのため,㈱XYZ家具は,イギリス法についてはよくわからないものの,ノルマを達成できずに発注をしなければ,㈱ABCファーニチャーによって契約は解除されるものと考えていたのです。

 

 ところが,実際には,ノルマが達成できない場合には,「ベンダーの選択により」解除もできるが,ノルマ分の発注を㈱XYZ家具に求めることができると書かれていました。

 

 また,㈱XYZ家具側から契約期間中に販売店契約を解除する条項としては,①㈱ABCファーニチャーに契約違反があった場合と,②同社が破産状態になった場合としか書かれていませんでした。

 

 したがって,英文契約書上は,㈱XYZ家具はあくまで契約終了までノルマ分を発注しなければならないという結果になっていたのです。

 

 この点は,実際に裁判で争った場合に結論がどうなるか,強制執行がどうなるかという問題はあったものの,裁判管轄はイギリスの裁判所とされていたため,費用などを考えると現実的ではありません。 

 

 ㈱XYZ家具の社長は,「そうは言っても,ノルマについてはそう厳しく追求するつもりはないと契約時に口頭で言っていたではないか。あれはなんだったんだ。」と抗議したそうです。

 

 しかし,英文契約書には完全合意(Entire Agreement)条項があり,「本契約書の内容がすべてである」と書かれていました。

 

 これらの点を㈱XYZ家具は明確に認識していませんでした。

 

 結果,ベンダー側が有利な立場にある状況で契約終了交渉をしなければならなくなり,㈱XYZ家具が残り8ヶ月ノルマ分を購入し契約を続け,その時点で契約終了という和解が成立したそうです。

 

 ㈱XYZ家具には大量の在庫が残ることになりました。

 

 その後,㈱XYZ家具は在庫処分に頭を悩ませましたが,最終的には次の販売店候補者に安く卸すことで決着しました。

 

 そして,次の販売店が商圏を変え,より有利な条件で㈱ABCファーニチャーと契約をし,日本で高級ソファーの売却を続けることになりました。

 

 こうして㈱XYZ家具は踏んだり蹴ったりの状態になったのでした。

 

本事例の解決法

 英文契約書に書かれたMinimum Purchase/Order Quantity(最低購入/注文数量)を達成できない場合に,具体的にどのような事態になりうるのか,制裁の内容を契約締結前にきちんと確認する必要があります。

 

 そして,制裁の内容があまりに自社にとって不利だと判断したのであれば,変更を要求する必要があったといえる事例です。

 

 一般に,海外の企業と取引をする場合,関係が良いときの関係性を前提に契約書のリスク判断をすると後で大きな問題になることがあります。

 

 「これから一緒にビジネスを立ち上げるために良好な関係だし,あまりこの段階でこちらからああだこうだいうと,契約がなくなってしまうかもしれない。ノルマの話も,実際に達成できないとしても,そんな厳しいことは言わないと言っているし,大丈夫だろう。」などと考えるのは黄色信号です。

 

 海外の企業は,契約時に言うべきことはすべて言うという発想でいることが多いので,こちらの要求を伝えても検討して飲めるか飲めないかを伝えてくるだけでそれで話がこじれることは私の経験ではほとんどありません。

 

 むしろ,契約時に伝えていなかったことを,契約締結後の取引中に伝えたりすると,「なぜ契約交渉中にそのことを話さなかったのか。今更言われてももう契約はなされたのだから,アンフェアだ。」と言われてしまう傾向にあります。

 

 また,いざトラブルになればそれまでの「やさしい態度」は一変し,途端に英文契約書の内容を盾に強硬姿勢に出てくることもしばしばです。

 

 このときに,契約締結交渉の際に,契約書の外でこのような話をしていたなどと主張しても後の祭りです。

 

 契約書に書いてあることがすべてであるという前提で相手は対応してくることがほとんです。

 

 実際に,英文契約書にはかなりの確率で上記の完全合意(Entire Agreement)条項が挿入されているので,契約書以外の約束などは持ち出せないことが多いです。

 

 この辺りは,日本の伝統的なやり方とは相当に違うものだという意識が必要だと思います。

 

 本件では,粘り強く交渉して,Minimum Purchase/Order Quantityを下回った場合には,ベンダー側から契約解除ができるのみとし,ノルマ未達分の購入義務は負わないとしたりすることもありえたでしょう。

 

 また,ノルマ未達の場合は独占権を奪われ,非独占の販売権に変更されるなどの条件に留めるように交渉することも考えられます。

 

 さらに,特に契約開始の1年目や2年目の初期の間は,ノルマは達成が義務付けられるものではなく,法的拘束力のない(Non Binding)単なる目標値(Forecast)や予算(Budget)に留めるなどの対策を取ることもできたと言えるでしょう。

 

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