イギリス賄賂防止法(Bribery Act 2010)の概説

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 イギリスに子会社などを設立して進出した日本企業にとって重要なイギリス法の一つに,Bribery Act 2010(賄賂防止法)があります。

 

 略してUKBAと呼ぶこともあります。

 

 なお,同法のガイダンスが,Ministry of Justice(法務省)から出されています。

 

 イギリスに事業展開している日本企業が,Bribery Actにおいて特に注意する必要がある条項は,7条のFailure of commercial organisations to prevent bribery(法人による賄賂防止義務違反)です。

 

 仮に法人が同条に違反した場合,罰則としては上限のない罰金とされており,アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Parties Act)の日本企業への適用事例なども見るに,罰金額が巨額になるおそれがあるため,注意が必要です。

 

 以下,簡単に説明します。

 

1. 適用対象となる法人

 Bribery Act 7条の適用対象となる法人は,7 (5) aに「a body which is incorporated under the law of any part of the United Kingdom and which carries on a business (whether there or elsewhere)」と規定されています。

 

 つまり,イギリス法に基づいて設立された法人を指しています。したがって,日本企業がイギリス法に従って設立した子会社はこの定義に当たります。

 

 そのため,仮に当該子会社が贈賄行為を行った場合,当該子会社は原則として賄賂防止義務違反として罰せられることになります。

 

 次に,7 (5) bには「any other body corporate (wherever incorporated) which carries on a business, or part of a business, in any part of the United Kingdom」と規定されています。

 

 つまり,イギリスのどこかで事業の一部または全部を行う法人がこれに該当することになります。

 

 したがって,例えば,日本企業がイギリスに駐在事務所などを置いて直接事業活動を行っていれば,当該日本企業は,賄賂防止義務の対象となり,これに違反すれば処罰されます。

 

 問題は,前述の子会社の例です。親会社たる日本企業が子会社を利用してイギリスにおいて事業の一部を行っていると認められてしまうと,子会社が賄賂防止義務違反を問われるのはもちろん,日本企業である親会社も罰せられることになってしまいます。

 

 この点,法務省のガイダンスは,その36において,「having a UK subsidiary will not, in itself, mean that a parent company is carrying on a business in the UK, since a subsidiary may act independently of its parent or other group companies」と述べています。

 

 要するに,「子会社は親会社から独立して事業を行うことが認められているから,子会社を有するということ自体は,直ちに親会社がイギリスにおいて事業を営んでいるということを意味しない」ということです。

 

 ただし,「in itself」と留保されている点,また,同36では,イギリスで事業を営んでいると認定できるかどうかは「common sense」(社会常識)によるとしていることからも,例えば,親会社が子会社の事業を一定程度管理・コントロールしているような場合には,当該親会社もBribery Actの7条の対象となる可能性があるとも考えられます。

 

 したがって,親会社またはグループ会社についても,慎重を期して,Briber Actに対応したグローバルコンプライアンスの体制を整えることが安全と言えます。

 

2. 贈賄行為の主体と禁止行為

 法人がBribery Actの7条において,贈賄行為の主体となる者とその禁止行為については,(1)に以下のとおり規定されています。

 

 「A relevant commercial organisation (“C”) is guilty of an offence under this section if a person (“A”) associated with C bribes another person intending—

(a) to obtain or retain business for C, or

(b) to obtain or retain an advantage in the conduct of business for C.」

 

「関連する商業組織(以下「C」)は、Cに関連する人物(以下「A」)が以下の目的で他の人物に賄賂を贈った場合,本条に基づく違反で有罪になる。

(a) Cのためにビジネスを獲得または維持すること,又は

(b) Cのために業務を遂行する上で有利な立場を得る,又は維持する。」

 

 つまり,7条の賄賂防止義務を負う企業の従業員や役員が,当該会社のための取引を得たり,これを保持するためや,事業上の利益を得たり,これを保持するために,他人に賄賂を渡すことが罪となると規定しています。

 

 なお,贈賄の主体は,広くとらえられていて,上記の従業員や役員のほか,代理店(Agent)なども含まれる可能性があるので,注意が必要です。

 

 さらに,注意が必要なのは,賄賂を収受する側は「公務員」に限定されていない点です。相手が民間人であっても,イギリスでは贈収賄が成立しえます。日本やアメリカなどと考え方が大きく異なるところです。

 

 また,税関などで手続きを円滑に行なってもらうために払う手数料としての,いわゆるFacilitation PaymentについてもFacilitation Paymentであるからというだけでは免責対象にしていない点も注意が必要です。

 

3. 免責事由

 Bribery Actの7条は(2)において次のように規定しています。

 

 「But it is a defence for C to prove that C had in place adequate procedures designed to prevent persons associated with C from undertaking such conduct.」

 

 「しかし,Cは,Cの関係者がそのような行為を行うことを防止するために設計された適切な手続を実施していたことを証明することは,Cの抗弁となる」。

 

 つまり,当該法人が,前記の贈賄行為などを行わないように適切な手続きを導入していた場合は,当該企業は免責となるとの規定です。

 

 この「適切な手続き」とはいかなるものであるかについては,法務省のガイダンスが以下のように具体化し,6原則を示しています。

 

① Proportionate procedures(割合に応じた手続)

 一部を抜粋すると,「Adequate bribery prevention procedures ought to be proportionate to the bribery risks that the organisation faces.」(「適切な贈収賄防止手続きは,組織が直面する贈収賄リスクに見合ったものであるべきである」)との記載があります。

 

 つまり,汚職リスクの高低に応じて,適切な予防手続きを確立することを求めています。

 

② Top-level commitment(最高レベルの経営陣による誓約)

 「Those at the top of an organisation are in the best position to foster a culture of integrity where bribery is unacceptable.」(「贈収賄を許さない誠実な文化を育むには,組織のトップが最適な立場にある」)とあり,最高レベルの経営者が賄賂が許されないという認識を育てていかなければならない旨が書かれています。

 

③ Risk Assessment(危険度の評価)

 「The commercial organisation assesses the nature and extent of its exposure to potential external and internal risks of bribery on its behalf by persons associated with it. The assessment is periodic, informed and documented.」(「営利を目的とする組織は,自らを代表して,自らに関連する人物による贈収賄の外部及び内部の潜在的なリスクへの曝露の性質と程度を評価する。この評価は定期的に行われ,情報を提供し,文書化する」)などと規定され,賄賂のリスクを定期的に評価し,書面化することを要請しています。

 

④ Due Diligence(デューデリジェンス)

 「The commercial organisation applies due diligence procedures, taking a proportionate and risk based approach, in respect of persons who perform or will perform services for or on behalf of the organisation, in order to mitigate identified bribery risks.」(「商業組織は,特定された贈収賄リスクを軽減するために,組織のために又は組織のためにサービスを行う,又は行う予定の人物に関して,割合的かつリスクに応じたアプローチで,デューディリジェンス手続きを適用する」)とされ,贈賄の実行者となりうる者に対し,リスクの程度に応じて,デューデリジェンス(調査)を実施することを求めています。

 

⑤ Communication (including training)(訓練を含むコミュニケーション)

 「The commercial organisation seeks to ensure that its bribery prevention policies and procedures are embedded and understood throughout the organisation through internal and external communication, including training, that is proportionate to the risks it faces.」 (「商業組織は,その贈収賄防止の方針と手順が,直面するリスクに見合った訓練を含む内部及び外部コミュニケーションを通じて,組織全体に浸透し理解されるように努める」)などとされ,トレーニングを含めて,社内全体で,賄賂防止制度ついて周知徹底させることを求めています。

 

⑥ Monitoring and review(監視及び見直し)

 「The commercial organisation monitors and reviews procedures designed to prevent bribery by persons associated with it and makes improvements where necessary.」(「営利を目的とする組織は,その組織に関係する人物による贈収賄を防止するための手順を監視・検討し,必要な場合には改善を行う」)とありますので,一度賄賂防止制度を作ればそれで足りるものではなく,常にブラッシュアップする必要性について触れています。

 

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