With or without cause(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,With or without causeがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「理由があってもなくても」という意味で使用されます。
英文契約書における慣用的な用語で,一般的には,契約の解除条項(Termination)で使用される用語です。
英文契約書では,契約を契約期間中であっても解除して終了させることができる場合が記載されていることが通常です。
典型的な解除できる場合というのは,債務不履行,契約違反,破産状態など相手方の財務状態が悪化したときの場合です。
このような場合を,with cause(理由がある)で契約を解除すると表現することがあります。
反対に,このような相手方の責めに帰すべき事由がないような場合でも,契約期間中,いつでも自由に契約を解約できるという条項が定められることがあります。
いわゆる,無理由解除条項です。この理由がなくても契約を解除できるということと,without cause(理由がない)の解除と呼びます。
無理由解除の規定は,例えば,「30日前に通知すれば,いつでも,理由があってもなくても,本契約を解約することができる」(Either party may terminate this Agreement with or without cause at any time by giving at least thirty (30) days' advance written notice)などと定められます。
無理由解除条項がある場合,英文契約書の類型によっては,他方当事者にかなりのリスクとなる場合がありますので,この条項がある場合は,要注意といえます。
当然ですが,理由もないのに契約をいつでも解除できるというのは,かなり一方的な内容だからです。
例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)において,メーカー側に,または,双方に無理由の中途解除権が付与されている場合を考えてみます。
この場合に,販売店(Distributor)が自社のリソースを駆使して,販促活動や広告宣伝活動をしてきて,商品が売れるようになってきたとします。
長い時間をかけてようやく損益分岐点を突破し,販売店(Distributor)がこれから利益を上げようというときに,メーカーがその利益を寺社グループで総取りしようと考えたとします。
これを実現すべく,メーカーは現地に子会社を設立します。
その後,元の販売店(Distributor)との契約を中途解約条項に基づいて途中で解約してしまうのです。
本来,販売店(Distributor)に落ち度はなく,債務不履行もありませんから,無理由の解除権が与えられていなければできない方法です。
しかしながら,中途解約権があれば契約の途中でも一方的に解除できることになり,メーカーの「タダ乗り」(Free Ride)を許すことになりかねないのです。
このように,解除をされる可能性がある当事者にとって,中途解約権はかなり一方的で危険な条項なので,十分に注意をする必要があります。
具体的には,上記の例では,販売店側としては,解約の通知を受けてから十分な猶予期間が設けられているかという点に注意しなければなりません。
在庫の処分や店舗の閉鎖など,事業からの撤退にも時間がかかります。業態の変更が必要であればそれにも時間がかかります。
したがって,解除の通知から契約終了までの猶予期間が短すぎると,販売店に不当な不利益が生じる可能性があるのです。
また,販売店としては,中途解約にあたり補償金の要求をメーカーに要求するということも考えられます。
正直,この内容を契約書に入れるのは難しいですが,それまでの功績の評価,または,次のビジネスへの準備金のような趣旨で一定の補償金をもらえるよう交渉する余地もあります。