Without regard to...(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Without regard to...があります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「…に関わらず」という意味で使用されます。
対義語はwith regard to...で「…に関しては」という意味になります。
Without regard to...という表現は,without regard to conflict of lawsなどという文章においてよく登場します。
上記の場合,「衝突法に関わらず」という意味になります。
衝突法(conflict of laws)というのは,日本で言うところの「法の適用に関する通則法」(通称「通則法」)に該当するもので,国際私法の問題を扱った法律のことです。
簡単に言うと,国際紛争が生じた場合に,その紛争に対しどこの国の法律を適用するかというのが国際私法の問題です。
そして,without regard to conflict of lawsという表現は,準拠法(Governing Law)条項によく登場します。
要するに,契約書において当事者がある国の法律を適用することについて合意するのが準拠法条項なのですが,この準拠法を定める際に,「衝突法=国際私法がどう定めていようと,当事者が合意した国の法律を適用する」としたいがために上記のような表現をするのです。
衝突法=国際私法によるとA国の法律が適用されると解釈される可能性があろうと,それは無視され,当事者が合意したB国の法律が適用されるということを確認的に規定しているのです。
先進国の多くでは,私的自治の原則と呼ばれるような原則が採用されており,当事者が合意した内容が基本的に尊重されることになっています。
準拠法についてもこの考え方が多くの国で採用されているので,当事者が準拠法を合意して定めた場合は,基本的にその国の法律が準拠法になると考えてよいでしょう。
上記のように,without regard to...という表現が出てきた場合,「…」の部分を無視するという意味合いがあります。
英文契約書を和訳して意味を把握しようとすると,今ひとつ意味がわからない表現の一つだと思いますので,和訳だけではなく実質的な意味合いを確認するようにしましょう。
また,他にも,in connection with..., in relation to..., pertaining to..., regarding...なども同様の意味でよく使用されます。
これらの「…に関して」という表現を英文契約書で使用する際には,注意が必要です。
なぜなら,「…に関して」という表現は,便利であるため,ついつい頻繁に使用したくなってしまうかもしれませんが,文脈によっては必ずしも意味が明確でなかったり,指している範囲が明確でなかったりして,あいまいさを残す結果となってしまうからです。
日本語で考えてみればわかると思いますが,「…に関して」と言った場合に,どこまで関係しているかというのが程度問題なので必ずしもはっきりしません。
はっきりしないからこそ,使い勝手が良いので,契約書は頻出する表現ですが,自分で使用するときは曖昧さがあることを理解しつつ使いましょう。
例えば,The Client shall pay fees with regard to the Services provided by the Service Provider...(クライアントは,サービスプロバイダーが提供するサービスに関する費用を支払う…)などと使用されます。
繰り返しになりますが,こうした表現を使用する場合は,意味があいまいにならないように注意しつつ使用する必要があります。
これは,もちろん日本語の契約書を作成する場合でも同様です。
なお,with regard to..., in connection with..., in relation to..., pertaining to..., regarding...などは同様の意味をもつとはいえ,英文契約書において使用される場面はそれぞれ異なるので,すべて置換可能というわけではありませんから,その点も注意が必要です。