Threaten(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Threatenがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,受け身で使用されることがあり,threatenedという形で見られます。
受身形のthreatenedは,英文契約書では,通常,「おそれがある」という意味で使われることが多いです。
例えば,「ある事由が生じた場合,契約を解除できる」という解除条項(Termination Clause)があったとします。
よくあるのは,「当事者が破産手続き開始を申し立てた場合に契約を解除できる」というような内容のものです。
上記の内容では,当事者が破産手続き開始を実際に申し立てたというところまでいかないと,契約の解除はできないということになります。
しかしながら,実際には,破産手続き開始を申し立てる前から,財務状態は悪化しており,実際の申し立てよりもかなり前からその取引から離脱したいと考えることも多いものです。
現実に破産手続き開始の申し立てをされてしまっては,相手方当事者が取れる対策は限られてしまいます。
そのため,そうなる以前に契約関係から離脱しておきたいと考えるのは合理的と言えるでしょう。
このようなことを想定して,実際に破産手続き開始の申し立てがされるよりも前に,申し立てのおそれが生じた時点で,契約を解除できるようにしたいという場合に,このthreatenという用語が使用されることがあります。
具体的には「当事者が破産手続きを申し立てた場合,または,そのおそれがある場合」などとして,規定されることになります。
もっとも,上場会社でもない限り,実際には財務状態の悪化を察知したり,証明したりするのは難しいので,上記のように定めたとしても実際に破産手続き開始の「おそれ」を理由に解除するのは困難であるとは思います。
また,財務状態がそれほど悪化しているのであれば,すでに行った個別取引について債務不履行が起こるなど,具体的に取引に支障が出ていることが大半でしょうから,そちらを理由に解除することも可能かと思います。
そのため,実践的な意味では,それほど大きな意味がある規定とは言えないかもしれません。
ちなみに,解除される側としては,このような「おそれ」というある程度主観的な判断が許されるような表現は危険ということになります。
したがって,合理的にそのおそれが認められる場合に限定するなどの対策が必要になります。
このように,英文契約書では,権利が発生する要件を充たしたのかどうかが主観的な判断に委ねられていることが相当数見られます。
これらすべてを排除するのは難しい場合もありますが,このような表現を見つけた場合,できるだけ客観的に判断されるように修正を試みることが大切です。
よくある修正の方法としてはreasonably(合理的に)という用語を入れるものです。
これにより,当事者の主観的な判断を禁止し,あくまで合理的に見てそのような判断ができる場合に限定されるという制約を課すことができます。
もちろん,何をもってreasonable,すなわち「合理的」といえるのかという問題もまた曖昧であるといえばそうですが,判断の是非を合理性という見地から争う余地が出るだけ「まし」といえるでしょう。
さらに,threatenは,threatened litiation/suitなどという表現でも英文契約書によく登場します。
これは「訴訟のおそれ」と和訳されます。よく登場するのは,株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)などです。
株式譲渡の対象となる会社について現に係属している訴訟(pending litigation/suit)や訴訟のおそれ(threatend litigation/suit)がないことを表明保証する(representation and warranty)という文脈でよく見かけます。