Basket(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Basketがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常は,損害賠償に絡む規定,特にM&Aの表明保証違反の場合の損害賠償に関して見られる規定で,「最低限度の損害額」という意味を表す用語として使用されます。
例えば,M&Aに関する契約において,売主が買主にした表明保証の内容に表明保証の内容が事実と異なることが判明した場合,通常は,売主は買主に対してそれにより被る損害を賠償する義務があると英文契約書では定められています。
もっとも,M&Aに関する契約書の場合,表明保証事項は多岐にわたって要ることが多いため,表明保証違反の程度も様々ということになります。
例えば,買収対象会社がある契約の債務の履行を失念しており,少し期限を過ぎてしまったため,余計な遅延損害金を取られたなどという場合に,その額が5万円程度だったとします。
これでも,通常は,債務の不履行はないことを売主が表明保証させられていますので,表明保証違反による,損害が5万円発生したことになります。
そのため,買主は,売主に対し,5万円の損害賠償請求が可能ということになります。
これでは,いかにも瑣末で,大きな取引になることが多いM&Aの実務にはなじまない,売主の負担が大きいなどの理由から,このBasketという条項が挿入されることがあります。
例えば,買主の売主に対する表明保証違反の損害賠償請求は,その合計額が金100万円以上とならない限り,損害賠償請求はできないなどとして定められます。
この定め方にも大きく分けて2通りあります。一つ目は,first dollar basketと呼ばれるもので,上記の例でいうと,損害額が100万円以上に達すれば,全損害額を支払うという定め方です。
もう一つは,deductible basketと呼ばれる方法で,例えば,上記の例でいえば,損害額が100万円を超えて500万円だったとすると,100万円を超えている部分である400万円だけ賠償すると規定する方法です。
もっとも,損害は損害であり,本来賠償請求するかどうかは買主の問題ともいえますので,買主としては,このようなBasket条項を安易に受け入れず,対象会社の事業内容や,M&Aの目的などに照らし,受け入れの是非,内容の妥当性を検証しなければなりません。