Within a reasonable period(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Within a reasonable periodがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「合理的な期間内に」という意味で使用されます。
例えば,相手方当事者に契約違反(債務不履行)があった場合に,契約を解除できるというTermiantion Clause(解除条項)などで使用されます。
日本の民法などでは,相手方当事者が債務不履行をした場合でも,原則として直ちに契約を解除することはできず,一旦,相当期間の猶予を定めて債務を履行するように求め(催告),その後,猶予期間を経過してもなお債務を履行しない場合に,はじめて契約を解除できるとされています。
また,法律を離れて考えてみても,契約書に定められる解除条項は,当事者の公平を図るため,一方の当事者だけが解除できると定めるのではなく,相手方当事者が契約違反をしたら,各当事者が解除できると双方向で定めることが多いものです。
その場合,例えば,自社が受託者として業務委託契約(Service Agreement)などを海外の委託者との間で締結するというような場合,自社の契約不履行の場面を考える必要があります。
このような場合,相手方である委託者は基本的に委託料を払っていれば,債務不履行責任を問われることはあまり考えられませんので,債務不履行解除の利益・不利益の影響を大きく受けるのは受託者として色々な義務を負っている自社ということになります。
この場合に,解除条項が,契約違反があれば,催告をすることなく,即時に解除できる(いわゆる無催告解除条項)などとされていると,貴社が些細な契約違反をしても,すぐに解除を主張されてしまうリスクがあるということになります。
そのため,自社としては,違反があったとしても,一定期間内に違反を是正できれば解除されないようにしたいと考えることがあります。
また,「うっかりミス」で契約上の義務の履行期を過ぎてしまうということもありえます。
振り込み期日を忘れていて十分な余裕資金はあるのに,つい支払いを期日までにするのを怠ってしまったという場合もこれを理由に即時解除されてしまうのは少々酷なようにも思います。
このようなケースを一定程度救済するために,解除の前に合理的期間を定めた催告を要件とすることがよく行われるのです。
ただ,この「一定期間」(reasonable period)というものが,違反の内容によってまちまちで,具体的な期間を定めづらいということもよくあります。
軽微な違反であれば,すぐに是正できるが,第三者の協力がいるような債務の不履行が問題になっているような場合では,ある程度期間が必要です。
委託者としては,悠長に契約違反の是正を待っていることは不利益が大きいので,この期間は短くしたいという動機もあります。
そのため,なかなか一筋縄ではいかないということがよくあります。
そのような場合に,ある意味柔軟性を求め,不履行が問題になっている債務の内容や性質も考慮した上,合理的な期間内に是正がなされれば,債務不履行による契約解除はなされないという内容にすることがあります。
合理的な期間を具体的な期間として1ヶ月以内,2週間以内と定めるのではなく,あえて解釈の余地がある「合理的な期間内」(within a reasonable period)と定めるわけです。
このようなニーズに応じて,within a reasonable periodが使われることがあるのです。
程度問題ということになるので,あいまいな表現ではありますが,上記のような場合には,一律に決定することが却って自社に不利益となるということもありますので,そのようなときには取りうる選択肢の一つかと思います。