Manufacture(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Manufactureがあります。
これは,英文契約書特有の用語ということではないですが,英文製造委託契約書(Manufacturing and Supply Agreement)やOEM/ODM契約(Original Equipment Manufacturing Agreement/Original Design Manufacturing Agreement)でよく使用される用語です。
和訳は,いうまでもないですが,「製造する」ということになります。
日本のメーカーが製造コストを抑えるために,海外の企業・工場に生産を委託するということがよく行なわれます。
その際に,製造委託契約書などが交わされますが,いくつか注意すべき点があります。
まず,委託先の会社・工場が,自社製品の模倣品などを製造するリスクです。
このような模倣行為は,契約書で当然禁止しますが,禁止されていても現実に行われることもありますし,自社で製造しなくとも,情報を売って,別の工場が製造するなどということもあります。
また,粗悪品が製造されるリスクもあります。
取引成立後に実際に大量に発注してみたところ,製造工場のクオリティが低く,日本では通用しないレベルの製造パフォーマンスであることが判明したということもあります。
粗悪品とまではいえなくとも,日本で要求される品質の概念と差があり,相手が品質問題だと理解しないこともあります。
よくあるのが,日本では品質に問題ありとしてアウトレット品になってしまうようなレベルのものでも,製造業者の国では問題なく優良品として売れるので,品質に問題があるとは言えないという論争です。
このような紛争が起こると,議論が平行線になってしまうことが多いです。
そのため,このような事態にならないように,事前に契約書で品質レベルについて詳細に合意しておくことが大切です。
さらに,レピュテーションリスクもあります。
例えば,現地工場が「ブラック企業」であり,過酷で違法な労働を強いられているとか,食品などであれば,工場の環境が衛生面で劣悪であるなどという事実が漏洩し,発注側の日本企業が評判を落とすというパターンです。
生産体制の問題もあります。
海外工場側が,日本企業からの受注したいがために,生産力について過剰なパフォーマンスがあるとプレゼンしたものの,実は,生産力に問題があり,後に受注拒否に至ったり,受注しながら納期までに注文数を生産できなかったりというケースです。
倒産リスクにも気をつける必要があります。
上記の生産力の問題とも絡みますが,海外の複数の工場と契約せずに,一つの企業や一国に依存しすぎていると,一つがだめになったときに生産が大幅に遅れるということになりかねません。
いわゆるチャイナ・プラス・ワンのように,複数の工場を確保しておき,リスク分散しておくことが大切になります。
当然ですが,上記のリスクが顕在化した際には損害賠償請求だと悠長なことをいっている時間はないし,それでは解決しないことがほとんどです。
特に,国際取引,海外取引においては,紛争は起きてから事後的に対処するというのは不可能であったり,非常に困難であったりすることが多いです。
双方の主張が食い違って,交渉が平行線をたどることも多いですし,かといって訴訟をするにはコスト面・時間面で制約が大きすぎるためです。
そのため,いわゆる予防法務(紛争になった後に事後的に解決を図る法務ではなく,紛争が起こる前に事前に予防的措置を施しておく法務)を取り入れ,契約段階で,あらゆるリスクを洗い,それに対する対処法を決めておかねばなりません。
すべてが契約書で解決できる問題ではないですので,先ほどの一社依存体制の回避など,契約書以外での対処法も事前に検討・決定しておく必要があります。
特に製造委託の場合は,出来合いの商品を仕入れて販売展開するという販売店契約よりも,危険性が高いものですので,リスクを広範囲に検証する必要があります。