Remit(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際によく登場する英文契約書用語に,Remitがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「送金する」という意味で使用されます。Payment(支払い)に関する条項でよく見られます。
TT Remittanceなどの用語もよく耳にすると思います。これは「電信為替送金」という意味で,実務的には,一般に銀行振込みによる送金をいいます。
このremit(送金する)という用語と,pay(支払う)という用語は厳密には意味が異なりますので,注意して下さい。
Remitというのは送金ですので,TT Remittanceであれば,例えば,買主が売主の指定銀行口座に向けて,買主の銀行から送金した時点で,remitしたことになります。ここで,例えば,100万円を送金したとしましょう。
日本国内の取引であれば,送金した100万円が銀行手数料はともかく,そのまま売主の口座に着金しますから,特に問題はありません。
ただ,海外との取引の場合,為替が介在します。そのため,例えば,売主の口座が米ドルで着金するという場合,買主が日本の銀行から100万円を送金しても,相手の口座に米ドルで着金した際には,為替レートの変動により,100万円に満たないということがありえます。
送金額が多額で,為替レートの変動が急激である場合,不足額が多額になることがあります。
この際に,買主が,不足分をさらに補填して払わなければならないのかという点で,このremitという用語とpayという用語の違いが問題になることがあります。
英文契約書の支払い条項が,remitとされていれば,送金時点で100万円であればよく,その後の為替レートの変動などで,着金時に実質100万円を下回っていたとしても,買主はそれ以上の責任を負わないと解釈されるのが通常でしょう。
他方,payとなっている場合,あくまで100万円を支払わなければならないため,着金した米ドルを日本円に換算した場合に100万円に満たないのであれば,100万円を支払ったことにならないという解釈がありえます。
この解釈に従えば,買主は100万円に達するまで,差額を支払わなければならないという可能性が出てきます。
そのため,支払いについて規定するときは,remitとpayの意味を区別して理解しておいた方が良いでしょう。
もっとも,remitなのかpayなのかという英文契約書の用語の違いだけでこのようなリスクを配分するのは妥当ではありません。
そのため,支払い通貨を明確にし,為替リスクについてはどう考えるのかを事前に協議し,上記のようなトラブルにならないように予め英文契約書で明確にしておく必要があるでしょう。