Ultra vires(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Ultra viresがあります。
「ウルトラ・ヴィレス」と発音するのが一般で,これは,英国法由来の概念になります。
特に英文契約書で記載したりすることがある用語ということではないのですが,英文契約実務に携わっている方は聞いたことがあるかもしれません。
簡単に説明しますと,「法人(企業)の定款の目的に記載されていない行為を,当該法人(企業)が行っても,その行為は無効となる」という理論です。
日本でも,会社には定款というものがあり,定款には,会社の事業目的を記載しています。
事業目的は,登記簿にも記載されているので登記簿でも見られるようになっています。
この事業目的に入っていない行為を法人が行った場合は,その行いは無効となるという理論がultra viresというものです。
こう聞くと,非常に危険な理論だと思われると思います。
というのは,もし当該取引がその会社の事業目的に入っていないとされると,その会社のみならず相手の取引先にとっても重大な不利益を生じる可能性があるからです。
そもそも,定款記載の事業目的に当該事業が入っているか入っていないかというのは,曖昧であることもあるでしょう。
また,前述のように,もし定款の事業目的に含まれないと判断されてしまうと無効になるのであれば,例えば取引先などは大きな取引に入ることを躊躇してしまうこともあるでしょう。
これでは,企業同士がびくびくしてしまい,健全な企業活動・経済活動が阻害されてしまいます。
ひいては,経済の発展・資本主義の発展にマイナスの影響を与えかねません。
こうしたマイナス面を考慮して,このようなある意味杓子定規な理論は,現在では重要性を失っているといって良いと思います。
現在では,英国の一般的な定款でも事業目的は広く解釈できるように記載がされていますし,イギリスの会社法などでも,このultra vires理論はかなり制限を受けています。
したがって,それほど,定款の事業目的に含まれるかどうかという問題は,心配しなくとも法的効果が失われるというケースはめったにないと考えて良いかと思います。
そういう理論も存在しているということを一応理解しておくくらいで,ビジネスの現場は問題ないのではないかと思っています。