Paid-up(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Paid-upがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「支払い済みの」という意味で使われます。
当然ですが,この用語が使われる場合,前提として何らかの支払い義務があったが,それが尽くされ,支払いは既に済んでいるという文脈があります。
このpaid-upが英文契約書でよく使われる場面は,研究開発委託契約書などで,完成した成果物に関する知的財産権の取り扱いについて規定した条項などです。
委託者が成果物についての知的財産権を取得すると定める場合でも,成果物の中に,当該研究開発より前にすでに受託者が取得している知的財産権を使用した成果が混じっていることがありえます。
そうなると,その知的財産権は受託者に帰属していますから,受託者としてもその知的財産権については自社に帰属したままにする必要があります。
他方で,その知的財産権が受託者に維持されるとなると,委託者としては成果物の中に他人の知的財産権が入り込んでいることになりますので,そのままでは,委託者の自由に成果物を使用することができません。
それでは,研究開発を委託した意味がありませんので,こうした場合には,通常,成果物に組み込まれた受託者の知的財産権を,委託者が無償で使用することができるという内容を契約書に書き入れます。
この場合の,「無償」つまり,追加費用は生じず,既に払った対価で支払いはあったとみなされるということを表すために,このpaid-upという用語が使われることがあります。
他にも,無償であるということを表す用語としては,free of chargeやwithout chargeなどがありますが,これらの表現は,対価の支払いなくというニュアンスになります。
反対に,paid-upという表現を使うと,無償というよりは,もともとの研究開発委託費用の中に,成果物に組み入れられた受託者の知的財産権の使用料も含まれており,それは既に支払われているという意味で使われます。
受託者の知的財産権の使用料が発生しているがそれはすでに全部支払われているという意味なのか,そもそも使用料は発生しないと表現するかの違いが一応あります。
実質的には同じことですが,万一,契約が解除などされて,損害賠償の紛争などになった場合,有償だけど支払ったという場合と,そもそも無償であったという場合とで賠償額が異なるということも理論上はあるかもしれません。
ただ,普通は,両者は実質的に同じことを言っていて,特に目立った違いはないかと思います。