For the time being in force(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,For the time being in forceがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「その当時有効な」というような意味です。
例えば,英文契約書において,「適用法を遵守する」という内容の条項を入れた場合に,法律は改廃されますので,契約書を締結した後に,英文契約書に記載した名称の法律がなくなったり,改正されたり,新法が制定されたりしている可能性があります。
その場合に備えて,常にアップデートした状態で,適用法令を遵守するということを契約書に記載するときにこのfor the time being in forceが挿入されることがあります。
この英文契約書用語が挿入されていなくとも,文脈によって最新の適用法令を遵守するというように解釈できる場合もあると思いますが,念のため明確にするためにこの表現を契約書に挿入することがあります。
同じような意味で,thenやthen-currentという英文契約書用語もよく使われます。
これらも「その当時」という意味で使用される契約書用語です。
海外取引では,2カ国以上の法律が適用される可能性がありますので,その海外取引に適用される法令について調査することが必要になる場合があります。
準拠法条項(Governing Law Clause)(当該契約にどこの国の法律が適用されるかを定める条項のこと)に,日本法を準拠法とすると定めたとしても,適用法令は日本法だけになるとは限りません。
例えば,法律の上位規範である条約の適用可能性があります。
商品の売買契約であれば,ウィーン売買条約(CISG)の適用可能性があります。
日本法を準拠法にすると定めただけでは,日本法に規定していない内容などについてはウィーン売買条約(CISG)が適用される可能性があります。
また,強行法規/強行規定といって,たとえ当事者が強行法規/強行規定の内容とは異なる合意をしたとしても,その合意より優先して適用される法律があります。
日本でいうところの販売店保護法や,労働法,消費者契約法,借地借家法,独占禁止法のような弱者保護や健全な市場経済の活性化を目的とした法律などです。
これらの法律に関しては,たとえ準拠法を日本法とすると定めていても,海外の現地の法律が適用される場合があるので注意して下さい。
さらに,いわゆる域外適用される法律というものもあります。
これは,競争法や独占禁止法,賄賂防止法,個人情報保護法などで,EUやアメリカの法律を中心に,これらが強制的に適用されるというような場合です。
これらの法律についても準拠法をどこに定めたかにかかわらず,これらの法律の適用要件を充たすと,各当事者に適用されることになります。
このように,海外取引においては,注意しなければならない法律が国内取引の場合に比べて多く,内容も複雑になります。
そのため,法令遵守条項については,当然の規定だと思って,特に重要視していないかもしれませんが,実は重い責任を定めているという自覚をしたほうが良いかもしれません。
なお,たまに,自国の関連法令について相手方に随時内容を伝え,その遵守を確認する義務を課した条項を英文契約書で見かけます。
これは,実際にはかなり大変な義務を課していることになりますので,安易に受け入れることは避けたほうが良いかと思います。
自社やその取引に適用される法令の内容を常にアップデートして把握して,さらに相手方にこれを報告するというのは実際には非常に大変だからです。
適用される法律というのもあらゆる分野の法律があらゆる側面に適用されるので,この法律について報告していれば大丈夫という簡単なものでもないのです。
もし,直接海外企業とのビジネスに関係がなくても,自社に適用される法律で,自社が違反しているようなことがあれば,それが軽微で海外企業とのビジネスに影響を与えるようなものでなくとも,理論上,報告義務や法令遵守義務違反になる可能性があるので注意して下さい。