Bind(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Bindがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「拘束する」という意味で使用されます。
英文契約書で使用されるときは,特に,「法的に」拘束するという意味で使用されることが多いです。
「法的に拘束する」というのを正確に英語で表現すると,legally bindingとなります。
契約書は,その契約書にサインする当事者が合意した内容を記載するものですので,契約書を締結すれば,基本的に契約書に書かれた内容は法的に拘束力を持ちます。
なぜなら「私的自治の原則」や「契約自由の原則」(Freedom of Contract)という法律よりも当事者の合意が優先させる原則があるからです。
ただ,例外的に,強行法規/強行規定と呼ばれる,当事者の合意よりも優先する法律によって無効となったり,公序良俗違反などにより無効となったりすることはあります。
このような原則・例外の関係は,いわゆる先進国では,ほぼ共通の考え方といって良いと思います。
この法的拘束力は,当事者が契約書に従うという意思表示を,契約書に署名するという行為をもって互いに行った結果として生じるものです。
つまり,契約書に,「この契約書は当事者を法的に(legally)拘束する(bind)」ということをいちいち記載する必要はないわけです。
では,このbindはどういうときに英文契約書で使用されるのでしょうか。
よく使用されるのは,Memorandum of Understanding(MOU)や,Letter of Intent(LOI)においてです。
MOUやLOIは「予備的合意」や「覚書」などと訳されることがあります。
これらのMOUやLOIは,正式な契約に至る前の交渉段階で締結されることが多いです。
つまり,MOUやLOIを締結する意味は,法的拘束力を伴った正式な契約をする前に,基本方針や契約に向けてのスケジュール,当事者の役割分担などについて合意をしておくという点にあります。
そのため,MOUやLOIは,一般的に,法的拘束力がないと解釈されています。
MOUやLOIに法的拘束力が認められるかについては,その内容によるので,一概には言えないのですが,上記のように解説されている書籍などはよく見かけます。
ただ,内容によっては,MOUやLOIの条項にも法的拘束力をもたせたいということがあります。
MOUやLOIの内容のすべてに法的拘束力をもたせることもありますし,一部の条項のみに法的拘束力をもたせるということもあります。
この場合に,bindが使われます。...legally binding on the Partiesなどとして,法的拘束力があり,当事者が拘束されることを明記します。
前述したとおり一般的にMOUやLOIには法的拘束力がないと考えられていますので,MOUやLOIに法的拘束力をもたせたい場合,その旨を明確に契約書に記載しないと,法的拘束力の有無を巡ってあとで当事者間で紛争になる可能性がありますので,あえて法的拘束力の有無について明記するわけです。
もちろん,通常,契約書には法的拘束力がありますが,一定の条項については法的拘束力をもたせたくないという場合,否定形にしてこのbindを使用することもあります。
例えば,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)では,通常,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を定めます。
サプライヤーとしては,販売地域での独占的・排他的な商品販売権を販売店に与える以上は,最低限購入してもらう数量を定めなければ,ビジネスを成り立たせるのが難しいためです。
他方で,販売店(Distributor)からすると,法的拘束力のある最低購入数量が定められると,まだ十分に売れるかどうかがわからない商品について,高い数字でのノルマを課されることになり,達成できずにペナルティを受ける危険性が高いという事情があったりします。
そのため,販売店としては,最低購入数量を法的拘束力をもたない,あくまでも目標値として定めたいと考えることがあります。
このような場合に,独占販売店契約書(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)に,販売予測=non-binding forecastとして,法的拘束力のない数値を記載するということがあります。
このように,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際には,法的拘束力があるのかどうかは重要な問題ですので,bindを使用して,法的拘束力の有無を明確にしておくことが大切です。