Essence(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Essenceがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「本質的要素」というような意味で使用されます。
この英文契約書用語は,当事者に契約違反があった場合の救済措置に関して,影響を与える用語です。
英文契約書は,英米法を基礎にして作成されることが多いです。
英米法では,当事者が契約条項に違反をした場合の救済手段は,原則として損害賠償請求(Damages)となります。
日本では,当事者が自己の責めに帰すべき事由によって債務不履行をすると,相手方は損害賠償請求もできますし,契約の解除もできます。
この契約解除が,英米法の世界では,常に認められているわけではないというのが,日本法との違いです。
英米法では,当事者が契約違反した場合に,相手方が損害賠償請求のほか,契約解除まで主張できる場合は,重大な契約違反(些細な違反ではない)があった場合に限定されています。
軽微な契約違反で契約が解除されてしまうと,当事者の法的な地位が不安定になりますので,解除は重大な違反の場合に限定されていると理解しておけば良いでしょう。
そして,このessenceという英文契約書用語は,この契約解除が認められるほどの重要な契約の要素であることを明示するためによく使用されます。
例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の納期に関する条項に,time is of the essenceという表現があったとします。
そうすると,これは,納期というものは,その契約において本質的な要素であるということを示しています。
これによって,もし納期に違反し,納期遅延をした場合,損害賠償請求だけではなく,解除も認められるということを意味することになります。
また,同様の意味を持つ英文契約書用語には,material(重大な)があります。
これも,重大な契約違反を表すときに英文契約書でよく使われます。
例えば,ある条項に違反すると,material breachとなると契約書に記載されていれば,その条項に違反すれば,損害賠償請求のほか,契約解除も認められるということになります。
もっとも,準拠法も影響しますし,通常は,essenceという英文契約書用語で済ませることはせず,どの条項に違反すれば,どのような効果(損害賠償請求や解除の対象となる)ということをはっきりと英文契約書に明記します。
重要なのは,国の法律によって,契約違反をした場合に相手方にどのような法的救済措置が与えられるのかは様々であるということと,そうであるからこそ,英文契約書に違反の場合にどのような救済措置が認められるのかを明記する必要があるということです。
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際に,essenceという用語が出てきた場合,その条項は契約の本質的な要素であり,重要な内容であることを示していますので,注意する必要があります。