イギリスの法制度|販売店を通じて英国に進出する際の注意点
この記事のポイント
- イギリスには3つの法域があり,調査や準拠法の指定ではイングランドとウェールズ法などを特定する必要がある
- 販売店保護法はなく,純粋な販売店契約には代理店法(Commercial Agents Regulations 1993)は適用されない
- ひな形を押し付けた場合,一方的な解約条項が不公正契約条項法により無効とされる可能性がある
こんな方に:販売店(Distributor)を指名してイギリス(イングランド)に進出しようとしている日本企業の方
1. イギリスの法体系と3つの法域
イギリスは,基本的に英国コモン・ローの法体系に属する国です(ただし,スコットランドは大陸法の影響も受けた混合法体系です)。もっとも,イギリスはイングランド,北アイルランド,スコットランド,ウェールズからなっており,法律はイングランドとウェールズ法,北アイルランド法,スコットランド法の3つに分かれていて,弁護士資格もこれらで別になっています。
| 法域 | 対象地域 | 法体系 |
|---|---|---|
| イングランドとウェールズ法 | イングランド,ウェールズ | コモン・ロー |
| 北アイルランド法 | 北アイルランド | コモン・ロー |
| スコットランド法 | スコットランド | 大陸法の影響も受けた混合法体系 |
そのため,イギリスの法律を調査する際は,上記の3つを区別して調査をする必要があることに注意しなければなりません。以下では,イングランドとウェールズ法を前提に解説します。
2. 販売店保護法はなく,代理店法に注意
イギリスには,いわゆる販売店保護法として独自に販売店を保護するために制定された法律は,存在していません。他方で,代理店(Agent)を保護する法律として,EC理事会指令(Council Directive 86/653/EEC)を受けて,Commercial Agents (Council Directive) Regulations 1993(代理店法)が制定されています(Brexit後も国内法として存続しています)。
そのため,代理店契約において,サプライヤーからの中途解約の告知期間が短すぎるなどの場合には,代理店法による規制を受けることが考えられます。もっとも,代理店法は代理店契約(Agency Agreement)に対するものですので,純粋な(genuine)販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)については適用されません。
そのため,販売店契約に関しては,契約書で明確に定めておけば原則として契約書の内容のとおり効果が認められると考えて良いでしょう。したがって,サプライヤーがよく挿入する傾向にある①中途解約条項,②債務不履行解除条項,③契約期間の満了による終了条項(更新拒絶条項)なども,基本的には契約書に定めたとおりに効果が得られると考えて良いかと思います。
3. 不公正契約条項法による解約条項の制限
ただし,Unfair Contract Terms Act 1977(不公正契約条項法)という法律があり,同法3条では,一方当事者の書面による標準取引条件(ひな形)に基づいて契約が締結された場合,責任を免除・制限する条項や,契約内容と実質的に異なる履行をし又は履行をしないことを認める条項は,合理性がなければ無効になるとされており,一方的な解約条項もこれに該当するとされる可能性があります。
実務上のポイント:日本企業がサプライヤーとしてイギリスの販売代理店に自社のひな形をそのまま受け入れさせたような場合,日本側の一方的な契約の解消条項が,内容によっては合理性がないとされて無効になることがあり得るので,注意が必要です。
もっとも,当事者の営業所が異なる国にあり,物品が国境を越えて引き渡されるような国際的な物品供給契約については,同法の上記規制は適用されないとされています(同法26条)。そのため,日本企業とイギリスの販売店との間の販売店契約では,通常は同法による規制を受けないと考えられますが,契約の内容や取引の形態によっては適用があり得るため,念のため注意しておくとよいでしょう。
4. 契約終了時の補償金請求
販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,契約終了を理由に,販売店(Distributor)がサプライヤーに対して補償金などの支払いを要求してくることがあります。そこで,この類の請求は一切認められない旨を契約書に記載することも多いですが,このような取り決めに関しても原則として有効になると考えて良いでしょう。
5. 登録制度と言語
イギリスでは,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を当局に登録しなければならないという制度はありません。そのため,当局への登録が原因で,旧販売店との契約を解消して新販売店との契約に移行するのが困難になるなどの事情も存在しないといえます。
また,言うまでもありませんが,公用語が英語ですので英文契約書の締結が可能です。
6. 準拠法・紛争解決
前述したとおり,イギリスでは,イングランドとウェールズ法,北アイルランド法,スコットランド法が存在するので,準拠法をイギリス法にする場合,UKの法律というのではなく,どの国の法律を準拠法とするのか(例えばイングランドとウェールズ法)を選択する必要があります。
紛争解決については,イギリスでの仲裁を選択することも多くあります。例えば,ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration: LCIA)において仲裁を行うなどと取り決められることがあります。
以上が,日本企業がイギリス企業を販売店として指名し同国に進出を考える際に最低限知っておいたほうがよい法制度の概要です。
契約書で確認したいポイント
- ✓契約が販売店契約か代理店契約か,実態に即して区別されているか
- ✓中途解約・解除・更新拒絶の条項が明確に定められているか
- ✓自社のひな形を使う場合,一方的な解約条項に合理性があるか
- ✓準拠法がイングランドとウェールズ法など特定の法域で定められ,仲裁など紛争解決方法も決まっているか
【ご注意】本記事は,執筆・更新時点において一般的なレベルで調査した結果を参考情報として記載したものにすぎず,個別の案件についての法的助言ではありません。各国の法令・判例・実務は改正等により変更されることがあり,本記事の内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。実際にお取引を検討される際は,必ず現地の法律に精通した弁護士に最新の情報をご確認ください。
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弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)/相談・案件実績 2,931件