At cost(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,At costがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「原価で」という意味で使用されます。
例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などで,サプライヤーが販売代理店(Distributor)に対し商品を供給していたところ,契約が終了したとします。
契約が終了すると,販売代理店は,商品の販売活動を停止しなければなりません。
ところが,契約終了時にきれいに商品が売り切れ,商品在庫がまったくないという状態ばかりではありません。
このような場合,在庫の処理をどのようにするのかが問題になることがあります。
というのは,販売代理店には,契約が終了した以上,早く在庫を売り切りたいですから,在庫処分セールなどを行って安くしてでも商品をさばきたいという動機がありますが,サプライヤーはブランド価値の維持のため,セールは避けてほしいという思惑を持っていることがあるからです。
このようなトラブルにならないように,契約書で予め在庫品の処理について合意しておくことが一般的です。
その在庫品の処理の方法の一つとして,原価で(at cost)サプライヤーが販売代理店から商品を買い戻すという内容が契約書に規定されることがあるのです。
販売代理店としては,この原価による在庫買取りをサプライヤーの義務にしたいところでしょうが,通常は,そうではなく,サプライヤーの権利として規定されます。
サプライヤーが在庫品の状態を確認し,在庫品の状態が良好である場合にのみ,サプライヤーの選択により(つまり義務ではなく権利),在庫品を原価で引き取ることができると規定されるのが一般的です。
在庫品については,在庫を抱えてしまっている販売代理店のみならず,サプライヤーとしても商品の流通コントロールやブランド価値の維持という観点から利害関係の強い問題ですので,予め契約書できちんと定めておかなければならない問題の一つです。