英文契約書の相談・質問集342 契約書がないほうがまだましということはありますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書がないほうがまだましということはありますか。」というものがあります。
私は常々自分のお客様に「契約書は大切です。必ず事前に協議して自社の実態とビジネスの理想にあった契約書を結んで下さい」とお話しています。
そのため,契約書がないほうがましだなどということはあるわけないと思われるかもしれません。
ただ,現実には,このような契約書を締結するくらいなら契約書が存在しないほうがましだということはあります。
もちろん,取引前にきちんと契約書を交わしたほうが良いというのが大原則です。
ところが,中には相手方に非常に有利な内容ばかりが書かれていて,しかも,自社で修正をしようとしても「修正は一切受け付けない」ということで,そのまま締結するしかないということもあります。
こういう事態が起こるのは,往々にして相手が大企業で自社が中小企業であり,大きな取引が予定されていて,相手の立場が強いという場合です。
このように相手が一方的に有利になる内容で契約を締結させられるくらいであれば,契約書がないほうが良いということはまれにですが存在します。
では,より具体的に考えると,どのようなレベルで相手に有利な内容のときに,契約書を結ばないほうがましと言えるのでしょうか。
それは,その契約関係に適用される法律よりも明らかに相手方が優遇され,反対に,自社が冷遇されていると言える内容の契約書のときです。
もし,このような場合に契約書の締結を拒絶し,契約書がないまま取引を開始したらどうなるでしょうか。
この場合,仮にトラブルが起きたとすると,国際私法と呼ばれる法規範により定まるある国の法律が適用されることになります。
そして,その法律の内容のほうが契約書の内容よりも自社が有利に扱われるのであれば,あえて契約書の内容を承諾して自社をより不利な地位に落とすことはないということになります。
したがって,適用される法律の内容のほうが自社にとって有利なのであれば,あえてそれより不利な契約書にサインしないほうがベターだというわけです。
もっとも,通常は話はもっと複雑です。そもそも,どこの国の法律が適用されるのかという点が,契約書で準拠法が合意されていないので,不明確です。
そのため,トラブルの内容によっては,日本法が適用されるものと考えていたのに,相手の国の法律が適用されることになってしまい,相手の国の法律に従うと契約書を締結しておいたほうがましだったということもありえます。
また,トラブルは色々な場面で起こりえます。そして,あらゆるトラブルにおいて,適用法律が自社を有利に扱っているということはまれでしょう。
したがって,その法律を前提にすると,あるトラブルでは自社が有利だが,あるトラブルでは相手方が有利だということになってしまい,必ずしも法律が自社の味方ということにはなりません。
そのため,契約書がないほうがましだという場面は,適用法令がほぼ確実に予測でき,トラブルの範囲が限定されていて,起こりうるトラブルにおいては契約書の内容より自社が有利であるときとか,契約書の内容が強烈に相手に有利な内容ばかりで全面的に自社が不利に扱われているというようなときなど例外的な場面ということになるでしょう。
とはいえ,私の経験でもこの契約書を交わすくらいならないほうがましだとアドバイスしたことはありますので,上記のような事態は一定数起こりえます。
もっとも,そのような場合でも,相手方に契約書はなしで取引したいと提案したところで「取引は契約書の締結が前提となる」と言われるケースがほとんどです。
そのため,契約書の締結を避けつつ取引ができる場面というのは,最初に契約書なしで取引をしていて,途中から契約書の締結を打診された際に拒否するというようなときしか現実には考えられないとは思います。
あまり役に立つ場面は少ない話だとは思いますが,契約書を作らないほうがましだということもあるので,少なくとも契約書を作ることが自己目的化するような事態は避けるようにしましょう。
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