英文 Asset Purchase Agreement(事業譲渡契約書) |
| 有形資産 設備・機械・什器備品・在庫など,物理的に存在する財産。シリアル番号や所在地まで記載するとトラブルを防げます。 | 無形資産・知的財産権 特許・商標・著作権・ノウハウ・顧客リスト・ドメイン名など。特に知的財産権は登録番号まで特定することが重要です。 |
| 契約上の地位・ライセンス 取引先との契約・ライセンス契約上の地位。これらは第三者(ライセンサー等)の承諾なしに移転できない場合があります(②で詳述)。 | 人的資産(従業員) 従業員は「財産」ではありませんが,事業継続に不可欠な人材の引き継ぎも重要な論点です。各従業員の個別同意が必要になります(②で詳述)。 |
② 合意の取り付け(第三者の承諾)
APAでは,譲渡会社・譲受会社の合意だけでは足りず,第三者の承諾が必要になる場面が多いのが株式譲渡との大きな違いです。承諾を見落としたままクロージングに至ると,事業継続に必要な資産を実際には取得できなかったという重大な事態になりかねません。
| 従業員の移籍 事業譲渡では雇用契約は当然に移転しません。各従業員から個別に同意を取得する必要があります。労働条件の維持・変更についても合意が必要です。 | ライセンサーの承諾 ライセンス契約には通常,事前書面承諾なき譲渡禁止条項があります。ライセンサーの承諾取得をクロージング条件(Closing Condition)に組み込むことが不可欠です。 | 賃貸人・リース会社 事業所の賃貸借契約やリース契約の地位を承継する場合も,賃貸人・リース会社の個別承諾が必要になることがほとんどです。 |
③ 債権債務の承継
APAは基本的に財産の売買ですので,譲渡会社に生じている債権・債務は原則として当然には移転しません。ただし,交渉の結果,売掛金の回収・特定の債務の引き受けなどを個別に取り決めることがあります。こうした合意事項を契約書に明確に記載しないと,「承継されるはずだった」「そのはずはない」という言った言わないのトラブルに発展しやすくなります。
| 契約書で明確にすべき事項 承継する債権・債務の範囲,承継しない負債の明示,売掛金の帰属,従業員への報奨金・退職金の負担区分など,個別の取り決めをすべて条文化します。 | Entire Agreement条項の限界 完全合意条項(Entire Agreement Clause)で契約書外の約束の効力を否定できますが,当事者の思い込みによる事実上のトラブルは防げません。交渉経緯の確認と明文化が重要です。 |
④ 商号の続用による債務承継リスク
APAでは債務を承継しないことも選択できますが,譲渡会社が使用していた商号をそのまま続用する場合は注意が必要です。日本の会社法22条は,商号を続用した譲受会社が譲渡会社の債権者に対して責任を負う旨を定めています。これは,商号を見て「事業も負債も引き継いだ」と期待した債権者を保護するためです。
実務上のポイント:商号を変更するか,続用する場合は会社法に基づく責任免除の登記(会社法22条2項)を行うことで,この責任を回避できます。APAの設計段階から商号の取り扱いを決め,契約書に明記することが重要です。
APA(事業譲渡)vs SPA(株式譲渡)の主な違い
| 比較項目 | APA(事業譲渡) | SPA(株式譲渡) |
| 取得するもの | 選択した事業・財産 | 会社の株式(=会社全体) |
| 負債の承継 | 原則として引き継がない(選択可) | 既存の債務を全て引き継ぐ |
| 第三者承諾 | 多数必要になるケースあり | 比較的少ない |
| 手続きの複雑さ | 財産ごとの移転手続きが必要 | 株式の移転のみ(比較的シンプル) |
| 簿外債務リスク | 原則として引き継がない | 引き継ぐリスクあり |
よくある質問
| Q. APAとSPAのどちらが有利ですか? |
| 一概には言えません。買主にとってはAPAで負債を切り離せる利点がある一方,多くの第三者承諾が必要になる手間があります。SPAは手続きがシンプルですが,対象会社の簿外債務・偶発債務も引き継ぐリスクがあります。取引の目的・対象事業の性質・デュー・ディリジェンスの結果を踏まえて選択します。 |
| Q. 対象財産に含めるかどうか不明なものがある場合はどうすればよいですか? |
| 「含まれるもの(Included Assets)」と「含まれないもの(Excluded Assets)」の両方を契約書・別紙に明記することが重要です。グレーゾーンをそのままにしておくと,クロージング後に深刻な対立の原因になります。 |
| Q. 従業員を引き継ぐには何が必要ですか? |
| 事業譲渡では雇用契約は当然には移転しません。①従業員への移籍の説明・合意取得,②新会社との雇用契約の締結,③労働条件の維持・変更についての合意という3段階が必要です。移籍を拒否した従業員は引き継げないことも念頭に置く必要があります。 |
| Q. 相手方から届いたAPAのチェックでは何を見てもらえますか? |
| 対象財産・除外財産の定義の妥当性,表明保証(Representations and Warranties)の範囲と補償上限・免責事由,クロージング条件(Closing Conditions),Price Adjustmentのメカニズム,競業避止条項の範囲・期間,準拠法・紛争解決条項などを精査します。 |
| Q. 日本の会社が当事者の場合,日本法は適用されますか? |
| 準拠法(Governing Law)の定めによりますが,日本の財産・従業員が対象となる場合,日本法(会社法・労働法など)の規制が強行法規として適用される場面があります。英文契約書の設計と日本法の要件を両方踏まえた対応が必要です。 |
ご利用にあたって
・ 本ページの内容は一般的な解説であり,個別案件への適用可否は事案・準拠法・相手国の法制度によって異なります。
・ 海外企業との取引では,相手国の法規制(外資規制・競争法・労働法等)が適用される場合があります。現地弁護士との連携が必要になることもあります。
・ 表明保証・補償条項の範囲や上限については,案件の規模・リスクに応じた個別の検討が必要です。お気軽にご相談ください。
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