日本法人がイギリスで事業を開始する際に,イギリス法人が営む事業の譲渡を受けるということがあった場合,TUPE(Transfer of Undertakings (Protection of Employment) Regulations 2006。2014年および2024年に改正)という規制を受ける場合があります。
TUPEとは,その名のとおり,事業譲渡に際して,譲渡される事業に従事する従業員の雇用を守ることを目的とした法規制です。
上記の例で言えば,事業譲渡を行うイギリス法人が雇用している従業員のうち,一定の要件を満たす従業員については,日本法人が雇用を継続しなければならない場合があります。
日本法人としては,事業承継を受けた後の人事は,譲渡会社とは全く別に独自に構成したいという思惑があったとしても,TUPEによって,それが一定程度阻まれるということがあり得ます。
日本法人がエージェントなどを指名してイギリスで商品販売展開をしていて,後に,販社を設立して販社で販売展開を承継するなどという場合も,販路や顧客などを承継し,それについて対価を支払うような場合,このTUPEの規制を受ける可能性があるため,注意が必要です。
なお,日本法人がイギリス現地法人を買収(株式の取得)して,そのまま事業を継続する場合には,原則としてTUPEの適用はありません。ただし,株式取得後に当該法人の事業を実質的に親会社に統合したような場合には,TUPEが適用されると判断された裁判例(Millam v The Print Factory (London) 1991 Ltd [2007] EWCA Civ 322)もあるため,注意が必要です。
TUPEは事業譲渡により,雇用主に変更がある場合に,新しい雇用主に雇用を継続させるものであるところ,そもそも,株式譲渡による買収の場合,雇用主である法人は買収前後ともにイギリス法人であり,株主が変更されただけですので,雇用主が変更される場面ではないからです。(法律上当然に,買収後もイギリス法人は引き続き従業員を雇用した状態にあります。)
ただし,日本法人とイギリス法人が共同出資してイギリスに新会社を設立し,その新会社に事業を承継させる場合には,雇用主に変更があるため,TUPEの規制を受けるので注意が必要です。
なお,事業譲渡を理由とする解雇は原則として不公正解雇(unfair dismissal)とされますが,労働力の変更を伴う経済的・技術的・組織的理由(ETO reason)による場合には,Redundancy(整理解雇)またはその他の実質的理由による解雇として正当化される余地があります。また,譲渡会社が清算を目的とする倒産手続に入っている場合には,例外的に雇用承継の規定(第4条)および解雇に関する規定(第7条)が適用されないと定められています(第8条7項)。他方,事業再建を目的とするadministration等の手続では雇用は承継され,一定の緩和措置が認められるにとどまります。
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