法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,コモン・ロー下の契約違反における損害賠償(Damages)(ダメージズ)の考え方について簡単に説明します。英文契約書を翻訳,チェック,作成する際にも役立つ知識だと思います。
契約違反による損害賠償請求の場合,原則としては,その違反行為がなく義務が約定どおりに履行されていたら獲得していたはずの地位に被害当事者を置くというのが建前です(expectation interest)(Hawkins v. McGee, 84 N.H. 114, 146 A. 641 (N.H. 1929))。
不法行為に基づく損害賠償においては,反対に,その違法行為がなければ,被害者が得られていたはずであろう地位に復帰させることが建前です(reliance interest)。
なお,これらの区別は判然とできるものではなく,当然例外的なものもあります(Junior Books Ltd v Veitchi Co Ltd [1983] 1 AC 520など)。
このような建前はあるものの,契約違反における損害賠償請求において,違反行為がなければ得られたはずの利益をすべて損害と認めては,際限なく広がり,当事者間の公平を著しく損ねる結果となることがあります。
とりわけ,いわゆるconsequential loss(結果損失)と呼ばれるものは,契約違反行為から間接的,派生的に生じるもので,どこまでこれを認めるのが妥当かというのはケース・バイ・ケースと言えるでしょう。
この判断には当事者が契約締結当時にその損害について予見し得たか否かという基準で一応判断されます。しかし,この基準は明確なものではなく,裁判所により判断が区々となることがあります。
因みに,日本法でも,特別な事情によって生じた損害については,当事者が知っていたか予見し得たといえる場合に限り賠償の対象となるとしています。
この点では,英国法と類似しています。ただ,この予見可能性の判断時点が,英国法では,契約締結時であるのに対し,日本法では債務不履行時とされている点が異なります。
上記論点に関する比較的新しいケースで興味深いものは,Transfield Shipping Inc v Mercator Shipping Inc (The Achilleas) [2008] UKHL 48があります。
このケースでは,元のchartererが期日までにチャーター船を返還しなかったため,船主が次のchartererにチャーターする期日に遅れが生じました。その間,チャーター料のレートが急激に下がったため,船主は次のchartererに対するチャーター料を下げざるを得ませんでした。
そこで,船主は,旧chartererに対し,(マーケットレートではなく)新chartererとの間で合意していたチャーター料と,実際に受領することになった減額後のチャーター料との差額を損害として賠償請求しました。
Court of Appeal (高等裁判所)は,これを認容しました。ところが,House of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)は,これを覆し,あくまで損害はマーケットレートと,実際のレートとの差額に過ぎないと結論づけました。
その理由として,急激なマーケット変化は,契約当時に旧chartererにとって予見不可能であったことなどを挙げています。
日本法においても同様ですが,この損害賠償の範囲というのは非常に不安定で,読みにくくケース・バイ・ケースとならざるを得ません。
そのため,契約段階において具体的にあり得る損害を特定し,その計算方法や,損害賠償の予定額(liquidated damages)を予め定めておくことは一定の契約類型では有効と言えるでしょう。
なお,損害賠償の予定を定めるにあたっては,違約罰(penalty)と解釈されないように,注意が必要です。仮に当該条項が損害賠償の予定ではなく違約罰であると判断されてしまうと,無効となってしまいます。
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