「英文契約書のポイント」,法人格否認の法理(Lifting the Corporate Veil)について簡単に説明します。
英国法の下でも,日本法の下でも,自然人(個人としての人間のこと)と同様に,企業(法人)には法人格(legal entity)が認められていますので,企業自体が株主や役員とは独立して法的権利義務の帰属主体となります。
つまり,人間ではない,観念的な存在である企業そのものが,契約の主体となって権利を有し義務を負い,もし訴訟になれば,企業自体が原告や被告として判決を受けるということです。
この法人格というヴェールを一時的に剥ぎとってしまう(lifting the veil)理論が法人格否認の法理です。
例えば,従業員が企業を退職する場合に,当該従業員が退職後その企業と競業する業務に就くことを禁止する競業避止義務が雇用契約に定められていたとします。
この従業員が,当該企業を退職した後に,個人事業主として自分が競業事業を行うのではなく,100%出資により会社を設立し,その会社に同事業を行わせたという場合に,果たして,競業避止義務を課した企業はこの従業員に競業についての差止請求や,損害賠償請求等ができるかというのが,法人格否認の法理の問題意識です。
形式的には,企業は別人格ですから,禁止された従業員自身の競業避止義務は破られていません。しかし,この企業は当該従業員の100%出資会社ですから,実質的には人格は同一であるとも言えます。
また,いわゆるペーパー・カンパニーを設立し,財産を同会社に所有させているものの,実質的なオーナーはその株主である場合に,この株主に対する債権を回収するために当該ペーパー・カンパニーの財産を債権者は目的にできるかという場面でもよく問題になります。
この場面でも,あくまで債務者は株主個人であり,ペーパー・カンパニーではありません。
したがって,形式的には,ペーパー・カンパニーの財産に執行することはできないのですが,株主とペーパー・カンパニーを実質同一視して,ペーパー・カンパニーの財産に対する執行を許すのが法人格否認の法理です。
例えば,この問題のリーディング・ケースであるSalomon v A Salomon & Co Ltd [1897] AC 22では,House of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)では以下のような判断をしています。
事案を要約すると,ある家族経営会社があり,同社が借り入れた金員につき,その債権者は,当該会社ではなく,大株主の財産を目的にできるかという点が争点となりました。
この会社の株主構成は,全株式2万7株の内,1人が2万1株を保有し,その他を家族の他のメンバーが保有しているというものでしたから,実質1人の株主による支配会社でありました。
しかし,House of Lordsは,認定された事実関係の下では,同会社の債権者は,実質オーナー株主個人の財産を目的にすることはできないと判示しました。
このように,法人が別人格を保有するという原則は,簡単に覆るものではありません。
しかしながら,他方で,法人格を形式的に捉えすぎ,資産隠匿などの不正目的にこれを利用するなどすれば,法人格否認の法理により,思わぬリスクが顕在化することがありますので,注意が必要です。
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