英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Without Prejudice(ウィザウト・プレジュディス)があります。
これは,英文契約書だけでなく,弁護士間の電子メールなどのコレスポンデンス(通信)にもよく登場します。
一般に,without prejudiceを和訳する際は「他の権利に影響を及ぼすことなく」と訳されています。
わかりにくい和訳ですが,例えば,「当事者に契約違反があった場合,相手方が損害賠償請求ができる」という条項があった場合に,損害賠償請求ができると規定されているからと言って,他の救済手段(差止請求や解除など)の権利に影響しません(差止請求や解除も依然行使可能)ということを意味します。
Without prejudice to any other remedies and rights hereunder(本契約上の救済手段および権利に影響を与えることなく)などとして使用されます。
The Seller reserves its all rights provided for hereunder.(売主は本契約において規定される売主のすべての権利を保有する。)とほぼ同じ意味です。
また,without prejudice to...は,in addition to...に置き換えることも可能です。
In addition to...は「…に加えて」という意味ですが,without prejudice to...の「…に影響を与えることなく」という意味と実質的に同じことを表しています。
…の部分に入る権利などが「損なわれることがない」ということは,その権利に加えて別の権利などが認められるということと実質的に同じ意味だからです。
準拠法(その英文契約書に関して問題が生じた場合にどこの国の法律が適用されるかという問題)によるとはいえ,基本的には,救済の内容が異なるので,一つの権利を行使したからといって,他の権利が消滅するような選択的関係にはないかもしれません。
そうだとすると,いちいち上記のように「他の権利には影響がない」ことを注意的に記載しなくても,元々他の権利が影響を受けることはないかもしれません。
ただ,選択された準拠法の規定内容を当事者全員が理解しているわけではないという場合もありますので,英文契約書に記載しておかないと,ある当事者は,上記のような救済的な権利は択一的なトレードオフの関係にあると理解していたということも起こりえます。
そうなると,救済を受けようとする当事者が,相手方に対し2つ以上の権利(例えば損害賠償請求と契約の解除)を行使した場合に,相手方から,反論を受ける可能性がります。
特に海外取引/国際取引では,結論がどうあれ,そもそもこうした反論を受けたり,クレームを受けたりすること自体が大きな損失です。
これにより,相手方を説得するために時間を奪われますし,また,相手方が最後まで理解しなければ,弁護士を雇ったり,裁判などの法的手続きを行なったりしなければならないということもありえます。
こうした無用なコストを生じさせないように,予め英文契約書では,誤解がないように,くどいようでもはっきり繰り返し記載する,当たり前のように見えても,あえて記載するという姿勢が大切といえます。
弁護士間のコレスポンデンスでは,紛争の交渉時の和解提案などをする場合に,それは「ここだけの話であって,これによって権利関係に変更を生じることはありませんし,これは権利関係に変動を来す証拠としては使えません。」という意味で使用されることがあります。
これは,英国法系のコモン・ローの国に広く認められている概念です。
具体的には,和解交渉時に,提案書面やemailの冒頭にwithout prejudiceと一言添えることが良くあります。
これは,その和解案の内容が提案者の不利な事実を譲歩として認めているような場合でも,「あくまで和解提案の中で譲歩を示しているに過ぎず,一般的にその不利な事実を認めるものではなく,(和解が決裂した)後に,または別の場面(例えば調停など)では,その不利な事実を改めて否定する権利を留保します。」という趣旨です。
言い換えれば,without prejudiceは,和解交渉が決裂して,訴訟や仲裁などになったとしても,交渉中に交わされた内容を証拠として使うことはできないということを表しています。
なので,without prejudiceという用語は,証拠開示(英国ではdisclosure,米国ではdiscovery)上の秘匿特権(証拠開示を拒むことができる権利)を保護していることを意味します。
ちなみに,この効果はwithout prejudiceと記載すれば得られるものではなく,「紛争の和解に向けて行われる交渉において交わされる通信」に認められるものです。
そのため,秘匿特権(証拠開示を拒むことができる権利)が認められるかどうかは,without prejudiceと書いてあるかどうかという形式面で決まるのではなく,実質的な内容で判断される点に注意して下さい。
当然といえば当然なのですが,交渉中のやり取りの内容の揚げ足を取って,「この部分は認めたではないか!」などの主張をされないように注意しているという理解で良いかと思います。
略してWPと表記されることも多いです。なお,ある紛争において,WPはWeather Permitting(天候が許せば)の略ではないのかということが問題になった冗談のようで冗談でない事例もあるので,略語の使用には注意が必要です。
また,他にも,without prejudiceは,当該提案では触れられてはいないが,提案者が主張し得る権利を,提案していないことによって放棄したと解釈されないようにする意味もあります。
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