英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Including but not limited to/including without limitation...があります。
これは,日常用語と意味が異なるということではありませんが,英文契約書に頻繁に登場します。
Including but not limited to...またはincluding without limitation...という表現が英文契約書で使用された場合,「…を含むが,これらに限定されない」という表現です。
…には様々複数の事由(例えば契約を解除できる場合の事由)が記載されることが多いです。
法律上の概念で,限定列挙(exhaustive)か例示列挙(not exhaustive)かが問題になることがあります。
限定列挙というのは,記載された事由のみが対象となり,それ以外のものは対象とならないことを意味します。
反対に,例示列挙というのは,挙げられた事由はあくまで例であり,列挙された事由のみに限定する趣旨ではなく,参考のために例示したにすぎないという意味です。
上記表現は,後者だということを表しています。including without limitationまたはinter alia(ラテン語で「とりわけ」というような意味)という表現も同様の意味でよく使われます。
英文契約書では,一般的抽象的概念だけを記載すると,具体的にどういう場面を規定しているのかがわかりにくいということがあります。
このような場合に,一般的抽象的概念をわかりやすくするために,例えばということで,具体例を挙げることはよくあります。
その場合に,挙げられた例が,「それらだけ」というように限定する趣旨なのか,それとも,「それらは典型例で他にもあるのだけど」というようにあくまで例示にすぎないのかは,重要な問題です。
もし,ただの例のつもりで挙げていて,例示された事項に限定する趣旨でなかったのに,そのことを英文契約書に明確に記載していなかったとすると,相手方に契約書に挙げられていない事項は対象にならないという反論をされてしまうリスクがあるからです。
このように,例示列挙なのか,限定列挙なのかの問題についてどちらなのかを予め英文契約書に書いておかないと不必要な解釈上の紛争を招くおそれがあります。
そのため,どちらの趣旨なのかを英文契約書で明確に規定しておくほうが安全でしょう。
The Distributor shall indemnify and hold harmless the Vendor from or against any damage, loss, expense (including but not limited to reasonable attorney's expenses)...(販売店はあらゆる損害,損失,費用(合理的な弁護士費用を含むがそれに限られない)...からベンダーを補償し,損害を与えない)などと使用されます。
注意すべき点を挙げると,including but not limited to...という表現を使って例示列挙にしてしまうと,当然ですがそこに列挙されたもの以外にも該当するものがあるということが前提になるので,定義などで使用されると,規定の内容が曖昧で不安定になるという点です。
例えば,NDA(秘密保持契約書)などで,秘密情報を定義する際に,このincluding but not limited to...という表現があると,どこまでが秘密情報なのかが曖昧になり,問題を生じます。
反対に,Force Majeure Clause(不可抗力条項)では,不可抗力事由を具体的にすべて挙げることは不可能ですし,不可抗力事由を列挙したものに限定するのは不適切ですから,必ずincluding but not limited to...やincluding without limitationなどの表現をし,例示列挙にします。
このように,いつも例示列挙が正しいわけでもないですし,いつも限定列挙すべきというわけでもありません。
ですから,英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際には,どちらが適切なのかをその条項ごとに適切に判断し,より合理的な方を選択していくことが肝要です。
海外展開・海外進出する際には契約書が必要になりますが,当然ながら契約書を作ることが目的ではありません。
例示列挙・制限列挙の問題にかかわらず,海外進出・海外展開の際の契約書では,常に最適解を求めつつ,契約書を審査しなければなりません。