英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Entire Agreementがあります。
これは,日本語では「完全合意」など,直ちに理解しがたい訳が付されていますが,完全合意とは,ある基準日までに存在した合意が,全て本合意(本契約書)によって上書きされ失効し,本合意(本契約書)以外に拘束力のある合意は存在しないことを確認する条項です。
コモン・ローの下では,parol evidence rule(パロール・エビデンス・ルール)(口頭証拠排除原則/法則)という原則があります。
これは,契約が書面によって締結された場合,契約条項を変更するような内容の合意が別にあった(例えば口頭)という主張を裁判所は認めないというものです。
もっとも,これには例外があり,例えば,misrepresentation(ミスレプレゼンテーション)は,一方当事者が「契約書には責任免除条項に全ての責任を免責すると記載するが,実際にはかくかくしかじかの場合しか免責を主張しない」などと述べたため,他方当事者が契約締結に至った場合,契約の取り消しや,損害賠償を認めるというものです。
このmisrepresentationによる契約取り消しまたは損害賠償請求を封じる意図がこの完全合意に含まれています。
つまり,当該契約書に書かれた契約内容以外には,いかなる合意もrepresentationも存在しないので,当該契約書以外に根拠を置く主張は一切認められない,というものです。
完全合意条項があると,裁判所は契約書外の合意を認めない傾向にあるため,非常に重要な条項です。
例えば,This Agreement constitutes the entire agreement between the parties hereto and supersedes any prior arrangement or understanding relating to the subject matter contained herein. (本契約は当事者間の完全合意を構成となり,本件についてのすべての契約前の合意に優先するものとする。)などと使用されます。
逆に,あくまでEntire Agreement(エンタイア・アグリーメント)条項は,契約締結時より前の契約書外の合意の効果を否定するものですので,契約締結後の契約書外の合意は効力を有する可能性を生じます。
この点をケアするのが,Amendments(改定)条項です。
Amendments条項では,通常,契約書の内容を変更するには,契約書外の口頭や電子メールなどでは行えず,必ず署名権限のある当事者がサインした書面をもって行う必要があると定められています。
これにより,契約締結日以後の合意についても,権限者のサインのある書面によって行わなければならず,これに違反する形式での合意は結局効力が否定されることになります。
なお,Amendmentsは,せっかく正式合意した契約内容を現場の担当者が電子メールでへのうできるなどとしてはあまり意味がなくなってしまうので,サインのある書面による合意を求めるものです。
そのため,個別の売買契約の条件など割と些末な内容については,機動的に,臨機応変に担当者レベルで変更しても良いと考えることもあります。
この場合は,個別契約と基本契約の内容が矛盾した場合個別契約の内容が優先すると契約書に定めておけば,上記の目的が達成できることになります。