英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Arbitration agreementがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「仲裁合意」を指します。
近年は日本でもADR(Alternative Dispute Resolution)(裁判外紛争解決手続)の一形態である「仲裁」についての認識が高まっていると言えるでしょう。国際取引を行う際は,仲裁合意に関する条項をよく確認して内容に留意しなければなりません。
余談ですが,英国では,arbitrationは最終的に仲裁判断が下されるため,むしろlitigation(訴訟)に近く,ADRの代名詞としてはmediation(調停)が挙げられることが多いです。
Mediationは判決や仲裁判断のように一刀両断的結論が出されるわけではなく,あくまで当事者の合意による解決を目指します。近年英国では調停の利用が高まっていると言われています。
筆者がロンドンのロー・ファームで勤務研修していた際,あるパートナーからこのADR,特に調停のメリットについて執筆した論文を日本語に訳して欲しいと依頼を受け,行ったことがありました。
実際の現場でも,litigationやarbitrationに持ち込むと,時間と,コストが増大する(ソリシターのタイム・チャージのみではなく,事案によってはbarristerを雇用する必要があるため,そのコストも見込まなければなりません。)ため,極力こうした手続を避ける傾向にありました。
また,敗訴者負担制度があることから,仮に訴訟で敗訴すれば勝訴者の弁護士費用の多くを敗訴者が負担しなければならないことも訴訟回避の動機の一つとなっています。
さらに,Part 36 Offerと呼ばれる民事訴訟法上のルールも和解促進機能を果たしています。
簡単に言及すると,これは,例えば,被告が訴訟において和解提案をし,これを原告が蹴ったが,後の判決で,和解提案よりも不利な内容の判決が出された場合には,和解提案を拒絶した原告が一定時期以降の被告の弁護士費用の大部分及び利息を負担しなければならないというものです。
こうした制度の下,係争当事者は,訴訟による一刀両断的解決よりも,ソリシター同士が交渉を重ねて和解に至ることを望み,現にその結果に終わるケースがほとんどです。
因みに,日本には,敗訴者負担制度はありませんので,不法行為に基づく損害賠償請求など一定の例外を除いては,たとえ勝訴しても,勝訴当事者は自己側の弁護士費用を自ら負担しなければなりません。