法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。

 

 今回は,Misrepresentation(ミスレプレゼンテーション)について説明します。

 

 Misrepresentationとは,表示者が事実と異なる言動を行い,これにより言動の受け手が契約に誘引された(induce)場合に成立し得うるものです。

 

 1) Fraudulent misrepresentation(詐欺的なもので,事実を表示した者が,虚実と知っている場合,または,表示された事実が真実であると信じていない場合)

 

 2) negligent misrepresentation(事実を表示した者が,虚偽の事実が真実だと信じて表示したが,信じたことが合理的な根拠に基づいてない場合),及び, 

 

 3) innocent misrepresentation(虚偽の事実を表示した者が,その事実が真実であると信じていた場合で,信じたことが合理的な根拠に基づいている場合)

 

 の3種類に分けることができます。

 

 実際の区別は難しいですが,表示される虚偽の内容は事実に関するものでなければならず,単なる「意見」は含まれません。

 

 例えば,レストラン経営をするためにある不動産を購入する契約を締結する際に,不動産業者が客の見込数を単なる意見として述べた場合には,misrepresentationとは認められないでしょう。

 

 他方,既に営業しているレストランを買い受ける契約の際に,そのレストランのオーナーが,今後の見込み客数について述べたとすれば,それは過去の事実に基づいた意見ですので,単なる意見とは区別され,misrepresentationとなり得ます。

 

 英国法においては,parol evidence rule(口頭証拠排除原則)というルールがあるため,契約書が作成されている場合は,契約書に定められた条項を変更するような効果を当該契約書以外の証拠から認めることが禁じられています。

 

 しかし,これにも例外があり,その一つと考えられるのが,misrepresentationなのです。

 

 例えば,契約書調印の前,交渉中に,「契約書ではこのように定めてあるが,実際にこれが起こった場合には,このようにする。」または「責任免除事由にはあらゆる原因を含んでいるように書いてあるが,実際にはこういう原因しかあり得ず,それ以外は想定してない。」などと,契約書とは異なる内容について口頭で約束されたような場合に,misrepresentationが成立し得ます。

 

 仮にmisrepresentationの成立が認められれば,その表示者の内心などに応じて,損害賠償請求(damage or indemnity)契約の取り消し(rescission)(取り消しはequity上のremedyのため,救済手段として認めるかは裁判所の裁量になります。)などが救済として認められます。

 

 しかし,当然のことですが,misrepresentationの立証は困難な場合がありますし,無用な紛争を避けるため,書面と異なる口頭合意をしたり,口頭の説明に依拠して契約を締結したりすることは賢明ではありません。

 

 必要なことは全て契約書に書かれてあり,その内容を完全に理解し,それ以外の合意は存在しないことを確認することがむしろ重要です。

 

 そのため,実務では,契約締結の際にentire agreement(「完全合意」)という条項を入れ,調印する契約書に記載された内容以外に合意は存在しない,または,存在した合意は全て本契約によって上書きされ失効すると定め,後のmisrepresentationの主張を封殺することが多いのです。

 

 なお,misrepresentationは言葉による表示だけでなく,無言の行動(conduct)によっても成立することがあるので注意が必要です。この点に関する著名な判例としては,Spice Girls v Aprilia World Service BV, CA (2002)が挙げられます。

 

 これはあの有名なプロフットボーラーであるディビッド・ベッカムの妻であるヴィクトリアが所属していたガールズバンド,「スパイス・ガールズ」がある出演契約を締結する際,当時既に解散が見込まれていたのに,あたかも解散などあり得ないかのように振る舞い,その無言のconductがmisrepresentationであると認められたケースです。

 

 Misrepresentationは,英国ではコモン・ローでも,制定法(Misrepresentation Act 1967)の下でも規律されていますが,一般に,保護に厚いと考えられているのは,立証責任の点やremedyの内容から,制定法の方です。

 

 コモン・ローにおいても,制定法においても,詐欺によるmisrepresentationがあった場合,たとえその損害が虚偽の事実を表示した者にとって予見不可能(unforeseeable)であったとしてもmisrepresentationに起因する全ての直接的な損害(direct loss)についての賠償責任が認められます。

 

 つまり,misrepresentationから生じたと認められる損害全てを認める傾向にあるのです。この点は,コモン・ローと制定法の両者ともに同じです。

 

 違いがあるのは,例えば,misrepresentationがnegligenceに基づいて行われた場合です。

 

 この場合,コモン・ローの下では,虚偽の事実の表示者が予見できる(foreseeable)損害までしか賠償責任が生じませんが,反対に,制定法の下では,詐欺(tort of deceit)のケース同様に,表示者が予見可能かどうかにかかわらず,虚偽表示によって被った直接的損害(direct loss)全部の賠償責任が生じるという判断が出されています(Royscot Trust Ltd v Rogerson [1991] EWCA Civ 12)。

 

 この直接的損害(direct loss)全ての賠償責任を認めるというは,非常に大きな責任です。かかる損害を認定したリーディング・ケースは,例えば,Smith New Court Ltd v Scrimgeour Vickers (Asset Management) Ltd [1996] UKHL 3が挙げられます。

 

 本事案では,House of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)は,以下の判断をしました。

 

 すなわち,ある会社の株式を詐欺的misrepresentation(fraudulent misrepresentation)により市場価格よりも高く買わされた原告が,損害を回避するため同株式を他に転売したものの,当時の市場価格よりも安くしか転売できなかったという事実関係の下で,購入価格と市場価格の差額(これが通常の場面で認められる損害)を損害として認定するのではなく,購入価格と実際の転売価格の差額というより大きな実際上の損害についての賠償責任を認定したのです。

 

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