法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,exemption clauseについて解説します。
コモン・ローの世界(コモン・ローに限りませんが)では,余りに酷で重荷となる条項は裁判所の判断により無効とされる場合があります。
特にexemption clause(免責条項)を巡り問題になることが多いです。
例えば,ビジネス上の優位な立場を利用して,一方的に自己に都合の良い免責条項などを定めても,場合によってその効果を限定されたり,効力を否定されたりすることがあります。
このように,コモン・ロー上の契約自由の原則が,コモン・ロー自身によって,また,equityやstatute lawによって修正されている場合があるため,この点の調査は不可欠です。
もちろん,特に制定法の場合,契約がbusiness-to-businessで締結されているものなのか,一般消費者との間で締結されているものなのかなどにより,その保護要請の程度が異なりますから,適用される法令も異なりますし,法令等の解釈も場面により異なる可能性がありますのでこの点も調査が必要です。
日本企業が取引する場合に,より注意を要するのは,準拠法の関係から,英国制定法ではなく,コモン・ローでしょう。
そのコモン・ローにおいても,一方的に一方当事者に有利な条項などは,時に効力が否定されるので留意しなければなりません。
例えば,条項内容が特殊なもの(unusual)で一方当事者にあまりに重荷となる条項は,その条項がハイライトされているなど,特に目立つような工夫がされていなければ,裁判所の判断により無効とされることがあります(Parker v South Eastern Railway [1877] 2 CPDなど)。
また,negligenceに基づく責任を免除する条項については,その旨が明確に定められていない限り,責任免除を認めない傾向にあります(Alderslade v Hendon Laundry Ltd [1945] KB 189)。
これは曖昧な条項は,起草者,すなわちその条項によって利益を受けようとする者の不利益に解釈するというcontra proferentemの一場面と考えて良いと思われます。
この点の著名な例としては,自動車の所有者である原告が修理のために被告に自動車を預けたところ,これが被告の過失に基づき被告のガレージ内で火災被害を受けたケースが挙げられます(Hollier v Rambler Motors (AMC) Ltd [1972] 2 QB 71)。
本件では,被告が免責される損害として,“damage caused by fire to customers’ cars on the premises”を規定する条項がありました。
Court of Appeal(高等裁判所)は,この免責条項が曖昧であるとして,同条項は,被告の過失(negligence)に基づかない火災による損害のみを免責するもので,したがって被告の過失(negligence)による火災被害は免責されないと判示しました。
次に,幾つかの制定法による修正について説明します。制定法で重要な法令の一つにUnfair Contract Terms Act 1977(UCTA)があります。同法の下では,例えば,人の生命または身体に対する損害についての賠償責任を免責することは禁じられています。
さらに,同法には,一定の場合,免責条項はreasonableness test(合理性の基準)という基準をパスしなければならない旨が定められています。
このreasonableness testとは,例えば,契約により一方当事者にnegligenceがあったとしても,ある契約違反についてはその責任が免除されるという免責規定(exemption)を,たとえ明確な文言により設けたとしても,その内容が合理性を有するものではない限り,無効化されてしまうというルールです。
他にも,同法の下では,企業間取引において,目的物の仕様(description)や品質(quality)の保証について免責条項を定めたとしても,reasonableness testにより不合理と判断されれば,当該条項は無効になるとも定められています。
このreasonableness testについてはガイドラインが存在し,合理的かどうかの判断の指標として利用されています。同ガイドラインに挙げられている基準は,
1) 取引当事者の立場上の力関係(strength of the bargaining position),
2) 相手方が免責条項を承諾するにあたり何らかの誘引(例えば,価格の減額などの利益)を受けているか,または,相手方が類似の免責条項を承諾することなしに,他の者と類似の契約を結ぶ機会があったかどうか
(例えば,対象商品がレアで,他の業者から買い入れる機会がなければ,買主が当該契約の交渉時に免責条項を事実上強制されたように認定される場合があり,その場合免責条項は失効しやすくなります。
逆に他から免責条項を入れずに買い入れる機会があったにもかかわらず,敢えて免責条項付きの当該契約を締結したのであれば,任意性が見て取れるため,有効になりやすいでしょう。),
3) 慣習や過去の取引などから,相手方が免責条項の存在とその範囲について知り,または,知りうべきであったと言えるか,
4) 何らかの条件に相手方が違反したときに免責条項が発動する場合(例えば,商品の欠陥について一定期間に売主に通知するという条件),その条件を充足することが現実的に可能であると,契約時に期待することが合理的と言えるか,
5) 商品が,相手方の特別の注文(special order)により製造され,加工され,または改作・改変されたか否か(特別の注文により商品を加工などしたのであれば,免責規定も合理的だと判断されやすくなります。),というものです。こうした当事者間の公平を図った制定法には場合によって留意する必要があります。
なお,上記ガイドラインは,UCTAの適用があるかないかにかかわらず,当事者間の衡平に留意しつつ,自己に有利な免責条項を定める必要がある場合に,一つの指標として有効なものと言えるでしょう。
さらに踏み込んで検討すると,他の項目で説明しているコモン・ローの原則であるprivity of contract及びvicarious liabilityという概念と絡んだ問題も生じます。
Privity of contractとは,契約当事者間でのみ契約の権利義務が生じ,第三者には影響を及ぼさないという原則を言います。
また,vicarious liability(使用者責任)とは,従業員が業務執行中に第三者に損害を与えた場合,当該従業員の使用者もまた第三者に対して損害賠償責任を負うルールを言います。
例えば,A社とB社が契約し,A社がある契約責任につき免責条項を定めたとします。そして,A社の従業員CがB社との契約上の業務執行中にB社に損害を与えたとします。この場合,Cは免責条項を定めた契約の当事者ではない(当事者はA)ため,privity of contractによりCはこの免責条項を援用できません。
この帰結と,vicarious liabilityの理論,すなわち直接不法行為を行ったCのみならず,A社もCの使用者としてvicarious liabilityによりB社に対して損害賠償責任を負うという理屈から,結局A社が定めた免責条項は,機能しないという結果になり得ます。
これを防ぐには,契約書上,従業員CがB社に損害を与えた場合,A社のみならず,その従業員Cについても免責されると定め,Cに対して免責条項の利益を付与することが考えられます。
これによりCも免責条項を援用することができ(Rights of Third Parties Act 1999),さらにA社もvicarious liabilityを回避できるという理屈です。
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