法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,privity of contractについて解説します。
現代では当然と言えば当然のことかもしれませんが,基本的な考えとして,契約は契約当事者間においてのみ効力を有するという,doctrine of privity of contractという原則が英国法にもあります。
したがって,当該契約における権利義務は原則として契約当事者のみが取得・負担し,契約外の第三者は影響を受けません。
この原則は日本法の下でも同じです。自分が約束してもいない合意から自分が権利を得たり義務を負ったりすることは基本的にないことになります。
しかし,英国法下,これにも例外があり,契約当事者が,第三者に対して利益を付与すると契約において明言していれば,第三者のためにする契約となり,当該第三者は契約関係にはないにもかかわらず,直接義務者に対して付与された権利を行使できることになります(Contracts (Rights of Third Parties) Act 1999)。
このような第三者には民事訴訟の原告適格(訴訟の当事者として裁判を遂行しその利益を受けることができる権利です。)が認められるということです。
この第三者の権利・義務の移転については,例えば,M&Aが起こった場合に,消滅会社との取引があった第三者が,当該取引に基づく履行請求等を存続会社に行使できるかという問題として浮上することもあります。
合併契約時に,こうした消滅会社の取引先との契約を存続会社に対して移転させることが明示されていれば,問題なく存続会社に履行請求できることになります。
なお,契約関係がない者に対して,例外的に義務を生じるもう一つの例としてnegligenceという不法行為法(tort)の概念があります。
これは,ジンジャー・ビアーとカタツムリをめぐるHouse of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)の著名な判例Donoghue v Stevenson [1932] UKHL 100により確立されたものです。
同判例では,契約関係のない当事者においても,ある損害が生じることが予見可能(foreseeable)であれば,注意義務(duty of care)が生じる場合があり,これに違反する(breach of duty of care)ことで,negligenceとしての損害賠償責任が生じると判断されました。
同事例では,カフェで友人が注文してくれたジンジャー・ビアー(中身の見えない瓶入り)を飲んだ客が,残りをグラスに注いだところ,中からカタツムリの死骸!が出てきて,その後病気を患ったという主張事実の下で,客がジンジャー・ビアーのメーカーに対して損害賠償請求できるかが問題となりました。
House of Lordsは前述のforeseeable→duty of care→breach of duty of careの流れを述べ,結論として,主張事実が証明されれば原告はメーカーに対して損害賠償請求できると判断しました。
上記の場面では,カフェの客はメーカーから直接ジンジャー・ビアーを購入したのではありませんから,客とメーカーの間には何らの契約関係がありません。
契約があるのは,カフェとジンジャー・ビアーを注文した友人との間(飲食を提供する契約),また,カフェとメーカー(ジンジャー・ビアーの販売契約)との間です。
そのため,本来privity of contractの理論からはメーカーはカフェの客に対して義務を負わないはずです。
そのため,カフェの客はカフェを訴え,カフェはメーカーを訴えることになるのが通常の契約責任追及での流れになります。もっとも,本件の客(原告)は自ら注文していないため,カフェとの間にも契約関係がなく,契約責任を追及すること自体ができませんでした。
しかし,House of Lordsはこの原則を適用せず,メーカーはカフェの客に直接責任を負うとしたのです。
上記判決以来,メーカーがエンド・ユーザーたる顧客に対して責任を負うケースが続発し,その後,この理論に一定の歯止めをかける(floodgate)必要があることが提唱され始めました。
ユーザーが損害を被ることが予見できるのであれば,メーカーなどの第三者にその損害防止義務を認め,同義務に違反すれば当該第三者が責任を負うというのでは,責任の範囲があまりに広がりすぎるという懸念があるためです。
そのため,近年では,上記のnegligenceによる責任発生を公正,正当かつ合理的な(fair, just and reasonable)範囲に狭める流れもあります。
(なお,余談ですが,サイダー(りんご果汁を発酵させて造る発泡性のお酒で,日本でいうサイダーとは違います)好きのイギリス人とパブで飲んでいる時,ナメクジはサイダーが大好きで,樽の中にはナメクジがたくさん入っているという話を聞いたことがあります・・・。)
また,ジンジャー・ビアー事件の後,Consumer Protection Act 1987が制定され,メーカーがエンド・ユーザーに責任を負う場面を制定法によって明確化しました。
同法は,因果関係の立証負担をユーザーに課してはいますが,他方でメーカーに過失がなくとも責任を生じるstrict liability(厳格責任・無過失責任)とし,一定の範囲でユーザーを保護しています。この点は,日本の製造物責任法も同様と言えます。
さらに,こちらもtort(不法行為)の問題ですが,vicarious liability(使用者責任)という責任も契約当事者の関係を超えて義務を生じる例として挙げることが可能です。
例えば,employer とemployee,principalとagent,partnershipにおけるpartner同士などで問題となります。
従業員が,従事する会社の業務において義務違反を行い,これにより相手に損害を生じさせたような場合,当該会社もまた責任を負うというものです。
使用者責任は不法行為の問題であり,典型例は,従業員が業務として自動車で物品を運搬中,歩行者を轢いてしまった場合,当該従業員の雇用者もまた賠償責任を負うという例が挙げられるのですが,取引的な不法行為というものも存在しており,企業間取引の場面でも使用者責任が問題となる場合があります。
一般に会社等は個人よりも賠償能力が高いこと,雇用主は被用者を利用して利益を得ているのだから損失も負担すべきという観念から認められている制度です。
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