英文契約書の相談・質問集8 準拠法と裁判管轄を日本にしておけば安全ですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と裁判管轄を日本にしておけば何かあっても大丈夫ですよね。」というものがあります。
これは,一言で回答すると,「大丈夫ではありません。」ということになります。
もちろん,ある取引で問題や紛争が生じた場合に,これらに適用される法律を日本法とし,紛争解決機関として日本の裁判所を選定しておけば,日本企業にとっては,紛争時の対応がしやすいということはあるでしょう。
しかしながら,例えば,日本で裁判をして勝訴判決を得たところで,相手方がその判決に従って義務を履行しない場合に,勝訴判決に基づき相手方の国で強制執行などをしなければならないとき,それは可能であるか,どの程度の費用や時間がかかるのかなどについては,国によってまちまちです。
また,裁判には,弁護士費用も相当にかかります。確かに,海外で裁判するよりは,日本での裁判の方がどの程度の費用が裁判にかかるのかは読みやすいでしょう。
しかし,たとえ,準拠法と裁判管轄を日本としていても,相手方が現地の裁判所に訴えて,当該裁判所がこれを認めて訴訟を受理してしまうこともありえます。
そうなれば,現地の弁護士を雇って,当地での裁判に対応しないと敗訴してしまう可能性があります。
このような場合は,弁護士費用も高額になりがちです。海外での裁判となると,ケースバイケースですが,現地の弁護士費用だけで,少額でも数百万円,紛争の内容によっては,千万単位,億単位になることも珍しくありません。これは中小企業にとっては,相当に高コストといえます。
また,日本気が洋画海外で訴訟をする場合は,現地の弁護士だけではなく日本の弁護士も雇って対応するのが通常でしょう。そうなれば,日本の弁護士費用もかかってきます。
さらに,相手方の国の法律によっては,契約書で日本の裁判所を管轄とすると合意していても,その合意管轄の規定を無効とするという場合もあります。
したがって,準拠法と裁判管轄を日本にしておけば安全であるということはないのです。
そもそも,日本であれ,海外であれ,訴訟などの法的手続きにより紛争を解決するとなると,程度の差はあれ,時間と費用が相当にかかります。
そのため,知的所有権関係などの特殊な場合を除き,中小企業が国際取引を行う場合は,訴訟等によらずに紛争解決をすることを前提に考えることをお勧めしています。
まずは契約の段階で,契約書をきちんと交わす,売掛を残さない取引条件とする,事前調査を十分にしてトラブルが生じそうな相手と取引しない,トラブルにならないように商流を考える,模倣などを避けるためにブラックボックスを残す…など事前の対応策を検討する方がはるかに現実的です。
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