英文契約書の相談・質問集20 裁判管轄はどこの国にすれば良いのでしょうか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「裁判管轄はどこの国にすれば良いのでしょうか。」というものがあります。
これは,かなり難しい質問です。そもそも紛争解決手段は,裁判にするのが良いのかということも考えなければなりません。
国際取引や英文契約書で定める紛争解決手段としては,Arbitration(仲裁)の方が一般的かもしれません。
仲裁と裁判の違いについて記載すると膨大な量になってしまいますので,ここでは詳細は省略しますが,簡単にいうと,仲裁の特徴としては,1.仲裁人(専門家)を選べる,2.解決までの期間が短い,3.上訴がないので確定的に解決する,4.相手がニューヨーク条約に加盟している国であれば,強制執行が裁判による判決よりも容易などが一般的にあげられます。
ただし,常に仲裁が良いかどうかというと,仲裁人の報酬が高額であるなどと言われたり,一概には言えないと思います。
例えば,実際に強制執行をする可能性があり,ただ,証拠は固いので迅速に勝訴判決が見込めるというようなときに,相手国には司法制度・執行制度が整っているという場合,あえて相手国の裁判管轄を選択して,現地の弁護士に速やかに強制執行までの手続を取ってもらう方が良いという場合もあると思います。
また,相手方の方が日本企業を訴えるという可能性があるのであれば,訴訟提起のハードルをあげるために日本の裁判を選択するのが戦略上良いということもあるかもしれません。
仲裁を選択するにしても,日本ではあまり仲裁は行われていないと言われていますから,国際仲裁をビジネスとして受け入れているシンガポールや香港での仲裁を選択した方が良いという場合もあるかもしれません。
また,紛争の分野によっても選択すべき国と紛争解決手続が異なるということもあります。例えば,海事紛争などは,ロンドンを選択することが多いです。
このように,必ずしも自国で行うことが常に有利とはいえないのです。
仲裁地として選択されることが多い都市は,ヨーロッパでは,ロンドン(イギリス),パリ(フランス),ジュネーブ(スイス),チューリッヒ(スイス)などが挙げられます。
アジアでは,香港やシンガポールがよく選択されます。アメリカは,ニューヨークが多いかと思います。
さらに,より実質的な議論としては,中小企業では,訴訟コストや仲裁コストを実質負担できないため,裁判管轄や準拠法をどこにするかは現実問題どこまで重要なのかという点も話題になったりします。
常に日本法を準拠法として日本の裁判所に管轄を与えておけば日本企業にとって有利かと言われると,そんなことはないのです。
なお,国によっては日本の裁判所の判決が執行できないという場合や,そもそも日本の裁判を紛争解決手段として選択してしまうと,準拠法の定めが無効になってしまうなどという場合もあります。
このように,裁判管轄や紛争解決手段を決める際には,実に多くの要素を考慮して決定しなければならないのです。
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