Delivery(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Deliveryがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「引渡し,納品」という意味で使用されます。
商品の売買契約(Sales Agreement)などで,引渡しがどの時点でされたことになるのかというのは,所有権(Title)の移転や危険負担(Risk of Loss)の移転などと絡めて定められることが多いといえるでしょう。
国際取引では,通常引渡しをどこで行うのか(引渡し地)については,インコタームズ(Incoterms)の貿易条件を選択することで決定します。
例えば,Ex Works(工場渡し)を選択した場合,売主の指定の工場や倉庫などで引渡しを行います。
この場合,売主は買主の輸送者に積荷を積むこともせず,単に売主の指定工場や倉庫において買主に商品の処分を委ねた時点で引渡しが完了したことになります。
引渡しと同時に危険負担も売主から買主に移転することになります。
ちなみに,インコタームズは危険負担の移転時期を定めているに過ぎず,所有権の移転時期については定めていませんので,Ex-Works(工場渡し)を選択したからといって,売主の指定工場において買主に所有権が移転するとは限らない点にご注意下さい。
ほかにも,引渡しや納品の概念はいつまでに引き渡すのかという納期(delivery date)に絡んで非常に重要な意味を持っています。
国内取引であれば,売主と買主が交渉してそれほど問題なく何をもって引渡し・納品とするかということを定め,納期までに納めることが可能でしょう。
しかしながら,国際取引においては,輸送の物理的距離が国内取引よりも長いため,納期に間に合うかどうかが国内取引に比べて非常に大きな問題になってきます。
そして,輸送距離が長いため,商品の引渡しが買主に近くなればなるほど,基本的には売主の負担や責任が大きくなってしまいます。
例えば,インコタームズのDDPの条件で買主の指定仕向港まで売主が商品を輸送するとなると輸送距離が長いため,納期に間に合わない可能性も出てきます。
したがって,(もちろん不可抗力(Force Majeure)を定めはしますが)国際取引/貿易においては,納期までの引渡しや納品(Delivery)という定めをするよりは,いつまでに,売主の港から発送するというTime of Shipmentという定めをすることの方が一般的といえます。
いずれにしても,所有権の移転,危険の移転,商品の引渡し・納品義務,納期は買主はもちろん,売主にとっても重要な問題ですので,英文契約書に誤解や矛盾が生じないように,適切に記載する必要があります。