Punitive damages(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Punitive damagesがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「懲罰的損害賠償」という意味で使用されます。
他の呼び方としては,exemplary damagesやvindictive damagesがあります。
日本にはない概念ですが,典型的には,アメリカの州の中にはこの懲罰的損害賠償制度を採用しているところがあります。
例えば,企業が不法行為を行って,消費者に損害を与えたような場合,日本法では,基本的には実際に被害者に生じた損害額(差額)が損害として認められるだけです。
これに対し,懲罰的損害賠償制度の下では,それだけではなく,企業に民事の罰金のように,実際に消費者に生じた損害とは別の賠償金を支払うように命じられる場合があるのです。
ちなみに,この実際に被害者に生じた損害のことは,compensatory damages(填補損害賠償)と呼んでいます。
これが,日本法でいうところの通常の「損害賠償」に当たると理解すれば良いかと思います。
また,この懲罰的損害賠償の額は,多額になる傾向にあることが知られています。
そうでないと,企業に対する違法行為への抑止効果とならないためです。
したがって,企業は,経済活動を行うにあたって,よりガバナンスやコンプライアンスを重視し,多額の賠償金を背負うことがないようにしなければならなくなります。
日本企業が,こうした懲罰的損害賠償制度を有する国との間で取引を開始する場合,場合によって,懲罰的損害賠償制度のある国の法律が適用されて,この懲罰的損害賠償義務を負うということがありえます。
そのため,英文契約書の中には,このpunitive damagesについては採用せず,免責されるという条項を含んでいるものがあります。
また,英文契約書に民事の陪審員による裁判も行わないという条項が入っていることもあります。
これは,陪審員裁判の際にpunitive damagesが認められやすい傾向にあるため,これを回避しやすいように民事の陪審裁判を回避するという狙いがあるといわれることもあります。
このように海外展開・国際取引では,日本国内の法律やルールだけを前提に考えていると思わぬ大きなリスクを見逃していることもありえますので,注意しましょう。
相手が作成した英文契約書を審査しているときに,見慣れぬ用語にあたった際などには,必ずその概念について調べて,内容を法的な意味で理解した上で,リスクヘッジの必要がないかを専門家に相談するようにしましょう。