英文契約書の相談・質問集34 英文契約書にBest effortsとある場合,努力さえすれば問題ないですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書にBest effortsとある場合,努力さえすれば問題ないですよね。」というものがあります。
これは,Distributor shall use its best efforts to promote, market and distribute the Products in the Territory.(販売店は,本製品を本地域において販促し販売する最大限の努力を行う。)などとして使用されます。
このように,Best efforts(ベストエフォート)を和訳すると,「最大限の努力」というように訳されるため,確かに,日本語の言葉の語感からは,自社として最大限努力した場合には,best efforts(ベストエフォート)を尽くすという義務を履行したといえるように思えます。
しかし,英国コモン・ローにおいては,best endeavours(efforts)(ベストエンデバー/ベストエフォート)とは,「reasonable personが当該状況において合理的に可能であると判断されることを行い尽くすこと」を意味するとされています(Pips Leisure Productions Limited v Walton [1980] 43 P & CR 415)。
また,国際取引の実務上も,英文契約書で使われるbest endeavours(efforts)(ベストエンデバー/ベストエフォート)は,「目標を達成するために,一切の可能な努力を行わなければならず,かつ,利用可能なすべての財源を使うことを含む」と解釈される向きがあります。
そのため,準拠法や英文契約書の内容の解釈によっては,日本語でいうところの最大限努力をしたという義務の履行では足りない,つまり,契約違反になるということがありえます。
したがって,義務を負う方の当事者としては,安易にこのbest efforts(ベストエフォート)を受け入れたり,英文契約書を作成する際に用いたりすることは控えた方が良いといえます。
Best efforts(ベスト・エフォート)よりも程度が低い概念としては,commercially reasonable efforts(コマーシャリー・リーズナブル・エフォート)やreasonable efforts(リーズナブル・エフォート)が挙げられ,こちらを用いる方が良い場合があります。
英国コモン・ローでは,reasonable endeavours(efforts)(リーズナブルエンデバー/リーズナブルエフォート)は,義務履行者の事業上の利益を優先的に考えることが許され,制限的ではあるものの一定のコストを費消して努力義務を履行することが場合によって求められる一方,義務履行者の商業的な利益を犠牲にすることまでは求められないというレベルの義務とされています(UBH (Mechanical Services) Limited v Standard Life Insurance Co [The Times. November 13 1986])。
そのため,英国コモン・ローの考えによっても,日本語で考えるところの合理的努力というニュアンスとそれほど離れていないといえると思います。
このように,英文契約書は,和訳をしたとしてもその和訳の意味で意味を把握すればそれで良いというわけではないので,注意しなければなりません。
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