英文契約書の相談・質問集54 過失がない不可抗力で納品できなくても責任はないですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「過失がない不可抗力で納品できなくても責任はないですよね。」というものがあります。
例えば,売主が商品を買主に納期までに引き渡す義務があったのに,台風などの自然災害が原因で,納期までに商品を納品できなかった場合に,売主が責任を免れるのかという問題です。
買主としては,納期までに商品が納品されることを予定して自社の取引先に転売を予定していて,その転売利益を期待しているとすると,転売利益を失うという損害を生じます。
そのため,買主としては,このような損害を売主に賠償請求したいと考えるでしょう。これは可能なのでしょうか。
これは,難しい問題です。まずは,英文契約書において準拠法(Governing Law)がどう定められているかをチェックする必要があります。
仮に,日本法が適用されるとされていれば,日本では,過失責任が原則で,債務不履行責任(契約で約束した義務を義務のとおりに履行しなかった場合に生じる責任)を生じるには,義務を履行しなかった当事者に責めに帰すべき事由というものが必要です。
そのため,冒頭のような自然災害が原因で納期までに商品を納品できなかった場合には,通常,当事者に責めに帰すべき事由は認められないといえるでしょうから,責任を負わないという結論になると思います。
ところが,英文契約書に準拠法が定められていなかったり,英米法圏の法律とされていたりする場合には注意が必要です。
いわゆる英米法では,当事者の契約違反の責任を問うのに,過失や責めに帰すべき事由というものは要求されておらず,Strict Liability=無過失責任(厳格責任)が原則とされています。
そのため,英米法が基礎になる場合には,原則として,不可抗力が原因で契約違反があったときにも契約違反をした当事者は相手方に損害賠償責任を負うということになります。
したがって,英文契約書に定められた準拠法次第では,必ずしも不可抗力を原因とした契約違反が免責されるということではないということになります。(英国では,フラストレーション(Frustration)という後発的履行不能による契約終了などの概念がありますが,ここでは説明は割愛します。)
だからこそ,いわゆる,Force Majeure(不可抗力)条項が重要になってきます。
このForce Majeure(不可抗力)条項が英文契約書に定められている場合には,当事者がコントロールできないような原因で契約違反をしてしまったとしても,相手方に対して損害賠償責任などを負うことはないということになります。
日本法の理解では,不可抗力で債務不履行責任を負わないというのは法律上いわば当然のことです。
ですが,国際取引となると,適用される法律は一義的に決まっているわけではありません。
このように,Force Majeure(不可抗力)条項は,一見当たり前と思われる内容の条項でも非常に重要な意味を持っていたりするという代表例といえます。
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