英文契約書の相談・質問集55 ペナルティにならないようにするにはリキダメと書けば良いですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ペナルティにならないようにするにはリキダメと書けば良いですよね。」というものがあります。
これは,損害賠償に関する問題です。例えば,当事者が契約違反をした場合,違反された当事者が被った損害を賠償するという条項がよく英文契約書に挿入されます。
ただ,損害賠償するといっても,実際に契約違反が起きたときに損害がいくらなのかということが明確にわからないということもよくあります。守秘義務に違反したような場合などの損害額の算定でよくいわれます。
そのため,ただ単に「契約に違反した当事者は,相手方が被った損害を賠償する」という内容だけではなく,「具体的に◯◯ドル払え」などと,損害賠償の金額を契約書に記載する場合があります。
これは,Liquidate Damages(損害賠償の予定)と呼ばれたり,Penalty(罰則)と呼ばれたりします。
ただし,いわゆる英米法の世界では,損害賠償については,契約違反などをした当事者が相手方に賠償する金額がPenalty(罰則)となると,その条項は無効となってしまいます。
対して,Liquidated Damages(損害賠償の予定)を定めたということであれば,その条項は有効となり,基本的に英文契約書に記載された金額をそのまま賠償金として払わなければならなくなります。
ということは,英文契約書に損害賠償金額を定めるときに,これはPenalty(罰則)ではなくLiquidated Damages(損害賠償の予定)であることを明記すれば,その条項は有効になるのかという問題があります。
これが本記事のテーマです。
結論としては,そうではありません。英文契約書に,これはLiquidated Damages(損害賠償の予定)であり,Penalty(罰則)ではないと定めただけでその条項が有効となるわけではありません。
要するに,条文のタイトルではなく実質的な条項の中身で決まります。
いくら,英文契約書にLiquidated Damages(損害賠償の予定)と書いていても,実際の損害額とは無関係,またはこれを遥かに超えるような額を合意していて,いわば履行義務者に対し,制裁という脅しをかけることにより履行を強制するような内容になっている場合は,Penalty(罰則)を定めたものと判断されて無効となります。
英国法においては,Liquidated Damages(損害賠償の予定)として認められるためには,契約違反により生じ得る損害額を事前に誠実に見積りしたものであるといえることが必要になっていました。
これを,英語では,"genuine pre-estimate of loss"と呼んでいます。
ただ,英国の2015年の最高裁(現在のThe Supreme Court)判例(Cavendish Square Holding BV v Talal El Makdessi)では,この点が修正され,損害賠償の予定条項が,それにより保護を受ける当事者の正当な利益(a legitimate business interest)との均衡を失した法外なレベル(extravagant, exorbitant or unconscionable)でなければ,ペナルティとはならず強制力がある旨が判示されました。
このように,いわゆる英米法の世界では,英文契約書で損害賠償の金額を定めるには,Penalty(罰則)とならないように,金額が法外なレベルになることのないよう,実際の損害額を見積もって定めるなどし,Liquidated Damages(損害賠償の予定)として認められるようにすることが必要になってきます。
ちなみに,日本法では,Penalty(罰則)の定めは「違約罰」という概念に相当すると考えられますが,この違約罰は直ちに無効とはされていません。
「違約罰」とは,民事上の罰金のようなもので,実際の損害額とは無関係に発生し,かつ,実際に損害が発生すれば違約罰とは別にその分も請求できると考えられています。
もちろん,違約罰の金額があまりに高額だったりすれば公序良俗違反違反などで無効となりますので,この意味では上記英国法と似ているともいえます。
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