英文契約書の相談・質問集64 英文契約書で見るwithout prejudiceとはどういう意味ですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書で見るwithout prejudiceとはどういう意味ですか。」というものがあります。
これは,和訳としては,「他の権利に影響をあたえることなく」というような訳になります。
ただ,和訳しても意味を掴みにくい英文契約書用語の一つだと思います。実質的にどういう意味なのかをよく理解した方が良いでしょう。
和文契約書で契約解除の条項に「本条による解除は損害賠償の請求を妨げない。」という趣旨の内容を見たことはないでしょうか。
要するに,本件で定めた解除という権利を行使したとしても,他に生じうる損害賠償請求権には影響がないということをここではいっているわけです。
Without prejudiceも同じようなことを表します。
「ここで定める権利は他の権利を消滅させたり,放棄したりということはなく,他の権利はまったく影響を受けずに存続したままである」ということをいいたいために,この表現を使います。
なお,たまに,和文契約書の条項で,「本条に定める解除によって損害が生じる場合には,当該損害についても損害賠償請求ができる」という内容を見ることがあります。
これは,解除することによって損害が生じた場合,その損害を賠償請求するという意味ですので,前述の表現と少し意味が異なります。
本来,日本の民法の考えや,最初に述べた「損害賠償請求を妨げない」という表現の意味は,解除権を行使して契約を終了させたとしても,別の法律要件により生じている損害賠償請求権があれば,そちらも別途行使ができるといういわば当然のことを注意的に定めたことになります。
つまり,損害賠償請求は,解除により生じた損害に限らず,債務不履行があれば,それにより被った損害については賠償請求がもともとできて,この権利は契約解除しても失われないということをいっているわけです。
損害賠償請求は,契約を解除してもしなくとも行使することは可能であり,without prejudiceの発想は,解除したことによる損害についての賠償請求もできるという意味では本来ないのです。
もともとある権利には影響がないということを注意的にいっているに過ぎないわけです。
この点,英文/和文を問わず,誤解しないようにした方が良いかと思います。
ちなみに,このwithout prejudiceという用語は,英文契約書だけではなく,弁護士間のemailでもよく登場します。
特に,弁護士同士が紛争になった当事者の代理人となって交渉などする場合のemailによく出てきます。
これも,今このような内容の提案をして和解を促していますが,この内容を提案しているからといって,他に認められうる一切の権利に影響を与えることはありませんということを伝えたいのでこの用語を使うことになります。
要するに,「こういう提案を今はしていますが,和解交渉が決裂すれば,請求しうることは全部請求できる状態にあるから,そのつもりで交渉して下さい」というニュアンスです。
ある請求権を行使したら別の請求権を行使できなくなるというのは,選択的ということになりますが,そうではなくて,両方を行使できるということを明確化しておく意味があると理解しておけばわかりやすいかと思います。
この点も,和解の道を探るためにある妥協案を提案していても,和解交渉が決裂すればその妥協案以外の要求をすることはいわば当然の前提になっているはずです。
Without prejudiceは,このことを注意的に述べていると理解すれば良いでしょう。
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