英文契約書の相談・質問集88 海外取引でも国内取引と注意点は基本変わらないですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外取引でも国内取引と注意点は基本変わらないですよね。」というものがあります。
確かに,例えば,商品の売買契約(Sales Agreement)であれば,代金の支払い確保,欠陥商品への対処法など,業務委託契約(Service Agreement)であれば,業務の内容・範囲を明確化するなど,取引上重要なポイントというのは大きく違いはないといえます。
ただ,海外取引特有の注意点というものはやはりあります。
いわゆるカントリーリスクというところまでいかなくとも,やはり日本人同士が日本国内で取引を行う場面とは相当に異なることを意識する必要があります。
まず当たり前ですが,わかりやすい違いに言語があります。多くの日本人は日本語を母国語としているでしょうが,海外取引で日本語で契約できることは稀だと思います。
多くの場合,英文で契約書が締結されます。そのため,言語の壁があります。
英語が得意でないと,まず契約書もそうですし,交渉段階などでも理解に齟齬が生じたり,伝えたいことがうまく伝わらず,交渉が難航したり,蓋を開けてみたら当事者で理解が違っていたりすることが少なからずあります。
また,文化や商慣習の違いも大きいです。日本の文化圏内であれば,いわゆる業界の常識だったり,全て言わずとも相手もわかっていたりということがありますが,海外ではこれが通用しません。
「阿吽の呼吸」や「ツーと言えばカー」というのは日本国内でしか通用しませんので,海外と取引する場合は,すべて交渉のテーブルに乗せて,余すところなく議論しておく必要があります。
さらに,これはあまり良い言い方ではないですが,日本人に多いと思われる「性善説」的な考え方が危険な場合がよくあります。
もちろん国にもよりますし個人にもよるのですが,海外取引では,騙そうということではないですが,相手が気づいていなければそれで良いし,自社に有利なように利用可能な場合には可能な限り利用しようというマインドの人が少なからずいます。
例えば,約束した支払いでも,できるだけ支払いを延ばしたり,何か理由をつけて減額を試みたりするというのがむしろ優秀な経理担当だと評価されるという場合も,その国の文化によってはあります。
一度約束したのだし,継続的な商売なんだからきちんと期日までに満額支払ってくれるだろうという期待そのものが間違いということもよくあります。
また,模倣品リスクなども国内より海外の方が高いと考えるのが一般的でしょう。
そもそも知的財産権をどのくらい重視しているのかというのは国の文化によっても温度差があります。
海外事例の中には,模倣する,「パクる」ということに罪悪感や抵抗感がない「文化」というものもあると認めざるをえないような現象が起こっています。
英文契約書のドラフトのやり取りでも,日本企業に気づかせないように大切な条項を自分たちに有利にこっそり変更しているということもあります。
指摘しても「うっかり間違えた」,「気づかなかった」などととぼけられてしまい,それ以上どうしようもないということが多いです。
このような日本とは異なる独特のリスクというのがやはり存在します。
そのため,一般的な取引条件上の注意点もそうですし,それ以外の点においても,性善説的な発想ではなく,性悪説的な発想に立って,国内取引よりも慎重に交渉をする姿勢が海外取引では必要です。
イメージとしては,国内取引と海外取引で注意すべきポイントは全く異なるというよりは,取引そのものの注意点は国内取引の考えを基本的にそのままスライドさせつつ,プラスして海外取引特有の注意点を加えるというのが正しい姿勢かと思います。
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