Cap, Ceiling(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Cap, Ceilingというものがあります。
これは,通常,英文契約書で使用される場合,「上限」という意味で使用されます。
よく登場する場面は,損害賠償条項,補償条項などに絡め,損害賠償をしなければならない当事者について,損害賠償の金額に上限を定めるという責任制限(Limitation of Liabilties)条項においてです。
世界中の企業と取引しているメーカーなどですと,膨大な数のクライアントと継続的に取引をしているということが珍しくありません。
そのような場合に,契約違反の結果として相手方が損害を被ったという場合に,全損害を賠償するとしていては,場合によって損害額が膨大になるおそれがありますし,クライアントがどのように商品を利用したり販売したりしているかも把握していないこともあり,損害の額や内容を予測できません。
そのため,普通は,そもそも営業機会の損失などの逸失利益と呼ばれる損害などを含む,結果損害,間接損害など,損害の範囲が広い損害については免責される(免責条項)と英文契約書に書かれます。
ただ,これだけでもメーカーとしては,責任が広がりすぎる危険があるため,上記の免責に加え,さらに,責任を負うとしても,一定額でしか責任を負わないとして,さらなる責任制限を図ることがあります。
また,賠償対象を直接損害のみにして,間接損害や結果損害などを免責にしていても,規定の仕方や英米法などの準拠法によっては,逸失利益(loss of profit)を直接損害に含めることが考えられるので,責任制限も入れておいた方が安全という場合もありえます。
これが,Cap条項やCeiling条項と言われるものです。金額に蓋をしてしまう,天井を設けてしまうという意味で,これらの用語が使用されます。
当然ですが,損害賠償をする側から見れば不利益が大きい条項ですので,そもそもこのような責任制限を認めるのか,認めるとしても,実際に被る可能性のある損害額に比して,上限額が少なすぎないかなどを検討しなければなりません。
また,秘密保持義務違反や知的財産権不侵害の保証違反などは,損害額が多額になる傾向がありますし,違反の内容が重大のため,これらの場合には責任制限の適用はないと定めることもよくあります。
例えば,秘密保持義務違反,守秘義務違反の場合でも,責任制限が適用されるとしてしまうと,仮に,賠償額の上限額が1000万円とされていた場合,1000万円支払さえすれば,守秘義務違反をして良いということになりかねません。
そうなると,1000万円で機密情報を購入したということに実質等しいことになります。これは,機密情報の価値にもよりますが,通常は不当なことになるというのはおわかり頂けるかと思います。