英文契約書の相談・質問集95 英文契約書に和訳を付けて欲しいと取引先がいうのですが。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書に和訳を付けて欲しいと取引先がいうのですが。」というものがあります。
基本的に,契約書の言語は一つであるべきです。言語を翻訳しても,やはり,異なる言語ですので,完全に同じ意味になるように訳すのは不可能です。
したがって,どうしても英文と和訳に齟齬が生じることがありえます。
翻訳は誤訳の危険もありますし,そもそも概念が異なるので,誤解が生じる恐れもあります。
そのため,一番良いのは,和訳をして和訳で理解するのではなく,オリジナルの言語(英語)でそのまま理解することです。
ただ,取引先に英語がわからないからという理由で和訳を要求されることは結構あります。
その場合でも,原則は取引先に自らの責任と費用で訳すようにお願いするべきだと思います。
なぜなら,契約書の内容を理解し,内容についてリスクを負うのは取引先自身だからです。
取引先の立場からすれば,もしかしたら,和訳提供者が意図的に正確でない和訳を提供してきて,自社に不利になるのではないかという懸念があります。
また,和訳提供者の方としても,もし誤訳や間違いがあったときに,それを理由に契約の内容を否定されたり,取引先に有利な解釈を主張されたりする危険を負うことになりかねません。
したがって,お互いのために,和訳は,英文契約書を受け取った当事者が自己責任で行うのが良いのです。
しかしながら,そもそもの商品(例えばソフトウェア)提供会社は外国会社であるため英文契約書しかないけれども,自社が日本の販売店となって,日本の顧客向けに営業するという場合,現実的には和訳した日本語の契約書をもっていないと注文が取れないということがよくあります。
その場合は,あくまで和訳は正確に訳されたものである保証はなく,参考までに添付されたものであり,英文が常に効力を有するという旨のLanguage Clause(言語条項)を契約書に入れることが必須となるでしょう。
これを前提にして和訳した契約書を営業用に参照してもらって契約をとってくるというスタイルになるでしょう。
英文契約書を和訳したものを和文契約書として締結することもあるのですが,これは,本来はあまりお勧めできないです。
繰り返しになりますが,英文で作られた契約書はあくまで英文で理解すべきですので,和文契約書として締結してしまうと,英文契約書の内容と齟齬が生じる可能性があるからです。
こうなると,英文契約書を提供している外国会社との間の調整が大変になることがよくあります。
例えば,顧客から和文契約書に修正要求が入ったら,それと全く同じに英文契約書を修正したり,変更を外国会社に説明したりしなければならなくなるからです。
もっとも,お客様が和文契約書でないと締結できないということもあるので,その場合はやむを得ないこともあるかと思います。
私の経験上,英文契約書を和訳した和文契約書で契約を締結しようとすると,翻訳文は表現に違和感があったり,日本の慣習ではない用語が登場したりするので,締結が困難になることが多いです。
その場合,オリジナルである英文契約書での意味を変えない程度に,和文契約書の表現を変更したりしなければならないのですが,これは,現実には非常に難しい作業といえます。
まとめると,なるべく,①英文契約書のまま理解してもらう,②和訳するなら自己の責任と費用でしてもらう,③自社が和訳を提供するなら言語条項を入れてあくまで英文契約書を締結してもらう,④どうしても無理なら和訳した和文契約書を締結するという順に優先順位を考えて,対応するのが良いかと思います。
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