英文契約書の相談・質問集107 海外での会社設立というのは難しいのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外での会社設立というのは難しいのでしょうか。」というものがあります。

 

 これは,英文契約書の相談というよりは,もう少し広い範囲に属する相談で,事業全体に関わるものといえますが,よく相談を受けるので,記事を書いておきます。

 

 海外での会社設立については,もちろん,現地の会社法などがどう規定しているかの問題ですので,一概に難しいとか簡単だとかいえるものではありません。

 

 例えば,イギリスでは,会社設立(登記)は非常に簡単です。イギリス国外にいながらでも,オンラインで,15分程度でできてしまいます。

 

 資本金も1ポンドで構いません。設立時の住所などもひとまずは,実際に使用することができるオフィスなどがなくとも,仮の住所地(例えば現地弁護士の事務所の住所など)を利用して登記することが可能ですので,簡単です。

 

 ただ,これは,あくまで,会社を設立する(登記する)ことが簡単だというだけで,当然ですが,実際に会社として事業活動をすることが簡単だという意味ではありません。

 

 例えば,銀行口座を開設するのも一苦労だったり,事務所を借りるのも大変だったりします。

 

 イギリスでは,マネーロンダリングの規制が日本より厳しいので,銀行口座を開設できても送金などに日本にはない規制があったりします。

 

 為替レートや物価変動の問題もあるので,事業採算性を読むのが難しく,会社を登記したものの,事業が立ち行かず早々に閉鎖することもあります。

 

 また,日本人を現地の法人で働かせるのは,ビザの問題で非常に苦労したりします。

 

 非常に大雑把にいうと,イギリスでは,移民の大量流入の問題がありますので,自国の労働者の雇用を守るという原則があります。

 

 そのため,イギリス企業が外国人(日本人)を雇うためには,その外国人でないとだめだ,イギリス人では代替性がないということが証明できないと就労ビザが支給されないという事情があったりします。

 

 また,その労働者に年俸もかなり高額の支払いを約束しないとビザが発給されず,ビザ問題は大変苦労を伴います。

 

 上記のような従業員用のビザ以外にも起業家ビザなどもありますが,いずれにせよ,ビザの問題は大きいです。目まぐるしいスピードで改正されてしまうのも,ビザ制度の特徴です。

 

 私もイギリス留学時にビザの問題では本当に悩まされました。自分の住みたい国に住むということがこんなに大変なことなのか,憲法が保証している「居住移転の自由」という人権がいかにありがたいものか,と思ったのを今でも鮮明に覚えています。

 

 ちなみに私が取得した種類のビザは,この記事を書いている時点(2018年3月)ではもう存在していません。

 

 このように,ビザ制度は,ときの政権の政策によっても大きく変わったりしますので,非常に不安定です。

 

 上記はイギリスの話ですが,新興国などでは,そもそも外資規制があることが多いので,日本企業が単独で出資して子会社を設立することが禁止されていることがあります。

 

 そのため,通常は,合弁会社を,Joint Venture Agreementなどを締結して,現地の出資者と共同で設立することになります。

 

 議決権の過半数を外国企業が取得することが禁止されていると,そもそも会社支配が理論上できないということでスタートすることが珍しくありません。

 

 もちろん,株主間契約(Shareholder Agreement)で意思決定に縛りを設けたり,いわゆるノミニー制度などを利用したりしますが,法的立場としては不安定です。

 

 誤解を恐れずにいえば,このような方法は,外資規制をいわば実質的に潜脱するような側面があることがありますので,狙い通りに法的に保護されるかというのは不透明であることも多いのです。

 

 ノミニー制度などが事実上広く利用されている国もありますが,中には,そもそも法的には実効性がなく,紳士協定的に考えざるを得ないような内容になっていることもあります。

 

 そのため,外資規制がある新興国などに進出するのは,そもそも現地法人をコントロールできるのかという意味での検討が必要といえるでしょう。もちろん,そうした理論上のリスクは承知の上であえて進出するという判断をすることはあります。

 

 他にも,国によっては,現地で働く人のコントロールも難しく,実力で会社や工場を奪われるということも起きています。

 

 また,海外子会社を設立する場合には,移転価格税制など,税制度にも注意が必要です。

 

 政治外交などの影響を受けて,日本企業がバッシングされて不買運動につながるなどのカントリーリスクもあります。

 

 要するに,海外に法人を設立して事業展開を図る際は,経営資源である,人,物,金,情報,知的財産権などをその国でどうコントロールし,守り,増やせるのか,ここまで事前に綿密に計画してから進出しないと,利益を確保するのは難しいでしょう。

 

 そのため,一般的には,海外進出の形態として,上記例のように海外に会社を設立して事業展開をするといういわゆる直接進出は,間接進出(現地の企業を販売店などに指名して商品を輸出販売していくような形態)よりもハードルが高いといわれているのです。

 

 以上のように,当然ですが,会社は現地で設立することがゴールではありませんので,設立自体の難易度だけではなく,その後の事業展開,経営資源のコントロールについて十分に吟味した上で進出する必要があります。

 

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