英文契約書の相談・質問集106 販売店(代理店)保護法とはどういうものですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店(代理店)保護法とはどういうものですか。」というものがあります。
これは,一般的には,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結する場合に注意する必要がある法律です。
国によって,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結した場合に,販売店や代理店を保護する法律を定めていたり,法律ではなくても判例によって一定の保護を与えていたりすることがあります。
これらを総称して,一般的に「販売店(代理店)保護法」と呼んでいます。法律の名称は国によって異なりますが,俗にこのように総称しているということです。
ちなみに,日本では,販売店(代理店)保護法のようなタイトルの独立した法律はありません。
ただ,「継続的契約の法理」という判例理論によって,販売店や代理店が一定の保護を受けられることがありますので,この判例理論が販売店(代理店)保護法に相当する理論と考えてよいでしょう。
販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)は,通常は,継続的に長期にわたって取引が持続します。
そして,販売店や代理店がメーカーよりも弱い立場であったり,当該メーカーに対する売上依存度が高かったりすることもあります。
このような場合に,メーカーの都合により販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を解約されたり,更新を拒絶されたりすると,販売店や代理店が,財務的に大きなダメージを受け,場合によっては倒産の危機に立たされたりすることもあります。
そのため,例えば,契約の終了までに事業の多角化や事業の変更ができるように契約終了までに十分な時間的猶予を与えるべきだとか,契約終了にあたり一定の金額の補償金をメーカーは支払うべきだとかいう議論がなされます。
これが,日本でいうところの「継続的契約の法理」というものです。
同じような趣旨で立法された法律や,成立した判例が外国にも存在します。
そして,これらの販売店保護法については,たとえ当事者が補償金の支払いはしないなどと合意していても,強制的に適用される(強行法規/強行規定)場合があります。
そのため,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)や代理店契約(Agency Agreement)を締結する段階で,契約を終了する段階になった場合に,どのような保護が販売店や代理店に与えられているのかをチェックしておかなければならないことがあります。
とりわけ,中近東や中南米は注意が必要です。これらの地域の国の中には,販売店や代理店が当局によって登録され,正式に保護がなされているところがあります。
そして,販売店(代理店)保護法が強行法規/強行規定として適用され,販売店や代理店の補償金の支払いなどが強制されると解釈される法律も国によって存在しています。
補償金の額も事案によってまちまちではありますが,販売店や代理店が得た過去1年分の利益などでは済まないような高額にのぼるケースもあります。
もちろん,販売店や代理店としての登録を認めないとしたり,契約継続による利益は期待してはならず,契約が終了しても一切補償金を支払わないなどと英文契約書に記載してリスクヘッジを図るわけですが,これらの当事者の合意が強行法規/強行規定により無効となる場合もあります。
このような場合,そもそも合意によるリスクヘッジができないことになってしまいます。
法律や判例による保護が存在しているのは知りつつも,取引先が補償金などの請求はしないと合意してくれて契約書を交わしてくれてメーカーが安心していたとします。
通常時は特に問題ないのですが,メーカーが契約を解約する場面になると,例えばメーカーが自社で販社を設立して販売展開したいと自社に都合が良いために解約するということもよくありますから,その段階では,販売店は腹を立てて約束を反故にし補償金の支払いなどを要求してくるかもしれません。
また,交渉時の経営者と契約終了時の経営者が交代している可能性や株主が交代している可能性もあります。そうなれば,前に約束した内容など無視して,法律を盾に補償金の支払いなどを請求してくることも考えられます。
そのため,いくら英文契約書で約束をしたとしても,法律が優先して適用されるとされている場合は,約束を根拠にビジネスを行うのは非常に危険だという場合があります。
このような場合は,一定の補償金の支払いを覚悟してもなお利益が上げられる,別の目的があって,補償金の支払いなどで仮に利益が出なくなっても問題ない,販売店や代理店が補償金請求などをしてくる動機がない(多角的に共同して事業展開しているなど)などの特別な事情がないと,事業展開は苦しいということになるでしょう。
このように,現地の販売店(代理店)保護法は,ときにやっかいな存在になります。もちろん,必ず補償金を請求されるということではないですが,リスクとしては把握した上で事業展開しないと思わぬ損失に繋がる可能性があります。
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