英文契約書の相談・質問集120 海外取引で紛争になった場合どのくらい裁判や仲裁になりますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外取引で紛争になった場合どのくらい裁判や仲裁になりますか。」というものがあります。
もちろん,紛争の内容や大きさは様々ですので,一概にいうのは難しいです。
例えば,知的財産権侵害や,秘密保持契約違反などは,差止請求などを含めて,法的手続きを取る必要性が高いという場面が多いといえます。
ただ,割と一般的な,損害賠償請求や,補償金の支払請求,売掛金の請求などについては,訴訟手続や仲裁手続を実際に行うという率は,特に中小企業の場合は極めて低いといって良いかと思います。
理由は色々とありますが,わかりやすい理由は,費用と時間がかかりすぎるからです。
国際的な紛争を裁判や仲裁手続によって解決するとなると,膨大な弁護士費用と,対応のための工数がかかります。
したがって,取引や企業の規模にもよると思いますが,一般的には,訴訟や仲裁をするというのは,費用と時間という観点からかなりハードルが高いことが多いです。
私の経験でも,万一トラブルになってしまった場合,弁護士同士の交渉による和解で解決していることが圧倒的に多数となっています。
契約段階ではなく,トラブルが起こってからご依頼を受けるときもありますが,その場合でも,弁護士同士の話し合いで和解するということが多く,多くの場合,裁判や仲裁には進んでいません。
海外の弁護士は,Hourly Rate Charge(タイムチャージ)といって,稼働時間にしたがって弁護士費用を請求することが通常ですので,紛争を長期化させてしまうと,弁護士費用が高額になるというのも理由の一つです。
この点は,日本では,弁護士が着手金・報酬金という弁護士費用を設定している場合があり,これによると,かかった時間は考慮されないということがあります。
その場合には,紛争解決が早期にできようが、紛争が長期化しようが,時間による弁護士費用の増加はないということになるので,日本国内の場合と国際紛争では少し考え方が異なるかもしれません。
また,紛争になるということは,相手に一方的に非があるというよりは,どちらにも一定の落ち度といいましょうか,紛争の原因があることが多いです。
そのあたりをお互いが理解し,合理的な範囲内で話し合って解決し,あまり紛争を長引かせないという動機が特に国際紛争では働いているように思います。
紛争が長期化すれば,正常なビジネスが回らず,損害がどんどん大きくなるということもあります。
また,裁判や仲裁となれば,裁判官や仲裁人という第三者が判断しますので,結論がどう転ぶかわかりません。(裁判や仲裁になっても手続き中に和解もできますので,手続き内で和解することも多いです。)
それよりは,自分の判断で,少し譲歩したとしても,紛争を自らの判断で自主的に解決し,他人の手に委ねない方が良いという価値判断も働いているでしょう。
また,判決や仲裁判断をもらっても,相手が素直に払ってくれず,その後強制執行手続などが残るようでは,さらに時間や費用がかかってしまいます。
このようなことを総合的に考慮すると,どこかの段階で和解するということがお互いによって利益になることの方が多く,多くの国際的紛争は和解で終わっているのだと思います。
とはいえ,裁判や仲裁に至ることはありますので,これらに関する契約書の条項の重要性は変わりません。
以上のことを考慮すると,弁護士に相談する際には,単に裁判や仲裁になった場合に勝てるかどうかを尋ねるのではなく,法的手続きになった場合のコストや時間,その後の現実的な回収可能性など,あらゆる視点でアドバイスをもらうようにした方が良いでしょう。
逆に,勝訴見込みのみ伝えて,積極的に依頼を勧めてくるような弁護士は,真にクライアントの利益を考慮していない危険がありますので,セカンドオピニオンを求めた方が良いかもしれません。
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