英文契約書の相談・質問集122 準拠法と裁判管轄地は同じ国にしないといけないですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と裁判管轄地は同じ国にしないといけないですか。」というものがあります。
どういうことかというと,例えば,準拠法をイギリス法(England and Wales法)にして,裁判管轄を東京地方裁判所とすることができるのかということです。
結論から申し上げますと,理論上は可能というケースが多いと思います。ただし,あくまで,「理論上」可能というだけで,現実的にはおすすめしません。
上記の例でいうと,日本の法律を学んで任官した裁判官が,外国法であるイギリス法に従って,裁判をするということになります。
なお,日本の裁判所で裁判をするときに従うことになる手続法は,法廷地法という原則に従って,日本の民事訴訟法や民事訴訟規則になります。
上記の場合に,イギリス法に従うことになるのは,あくまで実体法と呼ばれる法律で,裁判のテーマになっている請求権があるかないかなどの要件を定めたりしている法律(日本でいうところの民法や商法)のことです。
日本の裁判官がイギリスの法律に従うとなると,裁判官にもわからないということがありえますし,日本の弁護士もわからないということがありえます。
そのため,イギリス法の弁護士に相談し,訴訟を手伝ってもらうことになるでしょう。法廷に立つのは日本の弁護士ですが,イギリスの弁護士に法律の意見書を作成してもらったり,書面を書いてもらったりして裁判所に提出する必要があるということになるでしょう。
そして,日本の裁判は,日本語で行うとされていますので,意見書などはすべて和訳して裁判所に提出しなければなりません。
このような裁判の方法は現実的かつ妥当なものでしょうか。時間は膨大にかかるでしょうし,弁護士費用もイギリス弁護士と日本の弁護士の両方にかかりますし,翻訳コストもかかってきます。
また,裁判の結論としても,本来の日本法で裁くわけではありませんので,妥当な判決が下される可能性も低くなってしまうでしょう。
そのため,一応理論的には準拠法と管轄裁判所をそれぞれ異なる国に設定することは可能ですが,通常はこのようなことはしません。
準拠法と裁判管轄の国は一致させる方が現実的かつ妥当なことがほとんどでしょう。裁判ではなく,まだ仲裁の方が,定め方によっては,準拠法と仲裁が行われる機関や仲裁地が異なるということがありうるかもしれません。
仲裁人は選べますし,仲裁手続での使用言語も選択が可能です。また,アドホック仲裁にすれば,仲裁手続も柔軟に決めることができます(前述したとおり,裁判はその国の手続法と呼ばれる民事訴訟法に相当する法律に従い裁判するので柔軟性は低いです。)。
準拠法の国と仲裁機関や仲裁地の国が一致していないというパターンもあまり見たことはないですが,柔軟性が低い裁判手続よりは,現実的なように思います。
そもそも,準拠法と裁判管轄の国を一致させたくないという事情はあまりないかもしれませんが,質問を受けることがありますし,準拠法という概念と,裁判管轄という概念が別のものであることを理解するためには,良い質問なのかもしれません。
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