英文契約書の相談・質問集127 独占権は与えずに一定期間第三者には売らないと約束して良いですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「独占権は与えずに一定期間第三者には売らないと約束して良いですか。」というものがあります。
日本のメーカーが継続的に海外の卸売業者に対して商品を販売していく場合に,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結することがあります。
その場合,販売店(Distributor)側から,独占販売権(Exclusive Sales Right)が欲しいと要請を受けることがよくあります。
ただ,メーカーとしては,販売店(Distributor)の販売実績が見えない段階で,独占販売権という強い権利を与えることには抵抗があることが普通です。
独占販売権を与えてしまうと,一般的には,メーカーが特定地域の顧客に直接商品を売ることができず,かつ,特定地域において他の販売店も指名することが許されないということになり,メーカーにとって大きな足かせリとなるからです。
そこで,メーカーとしては,通常,最初から独占販売権を与えることは避けて,基本売買契約や非独占の販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)によって,一定期間マーケット・リサーチをさせたり,テストマーケティングをさせたりしながら,販売実績を見て,最終的に独占販売権を与えるかどうかを考えるという段階を踏まえたいと考えます。
ところが,販売店が有力な業者で,メーカーとしてはぜひパートナーとして迎えて一緒にビジネス展開したいという強い意向があったりすると,この流れを辿るのが事実上難しくなることもあります。
取引は,つまるところ,どちらがよりその取引が欲しいかという力関係(取引をより欲しているほうの立場が弱くなります)で立場の強弱が決まるところがあるという現実は否めません。
こういう場合は,販売店側の意向をある程度聞かざるを得ません。
その際,アドバイザーによっては,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)にはせずに,非独占販売店契約(Non-Exclusive Agreement)にしておいて,ただし,一定期間は,商品を特定地域で他に売らないという条件を契約書に書き込むのが良いというアドバイスをすることがあるようです。
ただ,契約書は,題名で性質が決まるわけではなく,実質的な内容によってその性質が決まります。
そのため,上記のような定めをすれば,いくら契約書のタイトルがNon-Exclusive Distribution/Distributorship Agreementとなっていても,実質的内容は明らかにExclusive Distribution/Distributorship Agreementです。
したがって,真実は独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結したことになるでしょう。
そのため,もし何か問題が生じた場合,独占販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結したのと同じ効果が生じると考えた方が無難でしょう。
場合によっては,Exclusive Distribution/Distributorship Agreementを締結した場合の効果を避けるために,あえてタイトルだけNon-Exclusive Distribution/Distributorship Agreementとしたと見られ,あまり良い結果を招かない可能性すらあります。
例えば,日本の労働法の分野でも偽装請負や偽装委任と呼ばれる問題があったりしますが,契約というのは形式ではなく常に実体を見られます。
そのため,実質的な内容と異なるような体裁を整えるという契約書を作ることはあまりおすすめできません。きちんと交渉して,実体を反映させた契約書を正々堂々と準備するのが基本だと思います。
もちろん,場合によっては,テクニカルな対応をすることはありますが,あくまで例外です。国にもよるとはいえ,基本的に裁判所も形式ではなく実質を見る傾向にあります。
このように貿易アドバイザーと称されている方でも,貿易実務に詳しいだけで法律には詳しくないということはよくありますので,ご注意下さい。
安易に,「アドバイザー」と名乗る人にしたがって,テクニカルなことをして大きく足元を掬われるということのないようにしなければなりません。
気をつけなければならないのは,そうしたアドバイザーを名乗る人は善意でアドバイスをしているということです。間違ったことを言っている,危険なことを言っているという意識はなく,相談者のためを思って,自分の経験から正しいと思ってアドバイスしているという場合がほとんです。
そのため,相談している側も,相手に悪意がないと感じていますから,そのまま信じてしまいます。
こうした危険を回避するには,一人のアドバイザーの意見を盲信するのではなく,セカンドオピニオンを求めてみるというのも有効だと思います。
また,貿易実務と法律というのは多くの場合一致しません。あくまで法律が守らなければならない大きな枠組みとして存在し,その中の運用として貿易実務があるに過ぎないことは理解しておきましょう。
話を元に戻すと,非独占販売店契約で,販売店に対し一定期間販売地域内で第三者に売らないと約束させられるかという問題については,可能ですが,それをすると,実質的に独占販売店契約を締結したとみなされるリスクが高いと理解しておきましょう。
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