英文契約書の相談・質問集129 インターネット販売(Eコマース)をさせる場合の注意点は?
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「インターネット販売(Eコマース)をさせる場合の注意点は?」というものがあります。
例えば,日本のメーカーが,海外の業者と販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結し,商品を販売展開したいとこの業者を販売代理店として指名したとします。
販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の場合,独占契約(exclusive)でも非独占契約(non-exclusive)でも,通常は,販売店が商品を販売して良い地域を限定して指定します。
例えば,販売店はシンガポール国内で商品を販売することができ,メーカーの書面による承諾がない限り,シンガポール国外で商品を販売してはならないというように取り決めます。
このように販売地域を限定するのは,いろいろな思惑がありますが,主たる理由は,地域ごとに販売チャネルをもっている卸業者が異なるため,効率的かつ最大限商品を販売するためには,各地域で別の販売店を指名した方が良いからというものです。
しかしながら,販売店が,インターネット販売(Eコマース)により商品を販売する際は,注意が必要です。
特に販売店のウェブサイトが英語など世界的に使われている言語で作られている場合,より注意が必要です。
上記の例で,シンガポール国内でのみ販売展開が許されたシンガポールの販売店が,自社のウェブサイト上で,日本のメーカーの商品をインターネット販売したとします。
シンガポール向けのオンラインショップですから,英語で制作されています。そうすると,世界中でそのサイトの言語を読むことができ,シンガポール国外の多くの国から注文が入ることがありえます。
特に物理的に近いASEAN圏内の他国にある顧客からオンラインで注文が入り,購入される可能性が高いです。
こうなると,販売地域を限定した意味が損なわれてしまいますし,もし他のASEAN圏内の国に独占的な販売権を持つ販売店を指名しているなどとなると,その販売店からクレームが来る可能性もあります。
このように,Eコマースを許すと,全世界の顧客がその販売店のサイトから簡単にオンラインで購入できるという状態になるため,販売地域の指定とバッティングするということがありえます。
特に,販売店が卸業者ではなく,小売店で,B to C形態でエンドユーザーに商品を売るような場合は,よりインターネットでの販売が加速してしまうことが考えられます。
販売地域の制限があるため,販売地域外の顧客に売らないように指示するにしても,顧客からすれば,注文を拒否されたとして悪い評価につながるかもしれません。
今は,SNSなどもありますので,低評価がすぐに拡散するおそれもありますので,販売店はそのような結果につながる行動を取りたくないということもあるでしょう。
また,EUにおいては,販売店が指定販売地域外で能動的に(actively)に商品販売を行うことを禁止することは許されるが,受動的に(passively)にも販売してはらないとすることは違法であるとされています。
これは,例えば,ドイツの販売店に対しドイツ国内においてしか自ら商品を販売してはならないというにとどまらず,ドイツ国外の顧客から注文があった場合に,注文を受けてはならないとすると,違法となるということです(EU機能条約第101条)。
そのため,EU加盟国の企業を販売店に指名する際には,特にEコマースの場合,国外からの注文も入りやすいため,この点の規制に注意する必要があります。
このように,オンラインショップは,通常の販売網で生じうる問題以上に,大きな問題を抱えている場合があるので,注意しなければなりません。
オンラインショップでの販売を禁じるというのも一つの方法ですが,その場合,販売地域での売上についても減殺される可能性がある点や,独占禁止法や競争法違反の問題を生じる可能性があるので,その点にも注意する必要があります。
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