英文契約書の相談・質問集130 準拠法を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。」というものがあります。

 

 英文契約書では,通常,当事者のお互いが異なる国に属するため,どの国の法律を準拠法として定めるかを決めておくのが通常です。

 

 準拠法というのは,その英文契約書で行う取引などに関連して,当事者間で紛争が起きたり,英文契約書に書いてある内容の解釈について争いが生じたりした場合に,解決を図るために適用する法律のことをいいます。

 

 例えば,ドイツと日本の企業が取引に入り,英文契約書を作成する際に,準拠法をドイツ法とする,日本法とする,または,第三国のイギリス法にするなどと取り決めます。

 

 通常は,英文契約書で,Governing Lawですとか,Applicable LawChoice of Lawなどのタイトルで取り決められます。

 

 まれに,このような準拠法の条項がない英文契約書があります。その場合,もし,上記のように紛争などが生じ,法律を参照しないと解決が図れないという場合,どうなるのでしょうか。

 

 このテーマは,「国際私法」と呼ばれています。(たまに「司法」と考えられている方がいらっしゃいますが,「私法」が正しいです。)

 

 この国際私法が,上記のように異なる国に所属する当事者間に争いが生じたような場合に,どの法律を適用するのかを決めています。

 

 日本の国際私法は,「法の適用に関する通則法」(通則法)というものがあり,この法律がどこの国の法律が適用されるかについて定めています。

 

 例えば,日本の裁判所が管轄権を有すると判断されるケースで,日本の企業が日本の裁判所に訴えたとして,日本の裁判官が,通則法により,準拠法を決定する場合,例えば通則法8条1項(「最も密接な関係がある地の法」)などを適用して,日本法を準拠法とすると判断するなどとして適用されます。

 

 ただ,上記のように「最も密接な関係がある地の法」などと言われても,抽象的ですし,一義的に明らかということにはなりません。

 

 ちなみに,通則法8条2項では「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法」「を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と規定しています。

 

 例えば,売買契約では,「特徴的な給付」というのは目的物の引き渡し義務を負う売主と考えられ,この場合,給付を行う売主の所在地の法律ということになると推定されると考えられます。 

 

 日本企業が買主でフランスの企業が売主だとするとフランスの法律が適用されると考えられるという意味です。

 

 もっとも,何が「特徴的な給付」に当たるかは必ずしも明確ではなく,取引形態によっては準拠法がどこの国の法律になるか予測することが困難なこともあるでしょうし,「推定する」とされているので反証を許すことになる点でもあいまいさを避けられません。

 

 さらに,裁判になると,裁判管轄がどこにあるのかという問題もあり,そもそも日本の通則法が適用されるのかも問題になることもあります。

 

 なお,国際私法は実体法(例えば原告が主張している請求権の発生要件は何かなどを規定しています)の問題を扱っていて,裁判を進めるのに適用される手続法は法廷地法という考え方により,原則としてその裁判所が所属している国の法律によります。

 

 日本の裁判所であれば,日本の民事訴訟法や民事訴訟法規則に従うことになります。

 

 このように,準拠法を英文契約書で予め定めておかないと,いざ紛争が生じたときにどのルールに従って解決すべきなのかが,非常に不透明になってしまいます。

 

 そのため,英文契約書で準拠法を定めておくのは必須といえるくらい大切なことです。

 

 しかしながら,この準拠法は大きなテーマのように見えるため,各当事者が自国の法律を準拠法とするのが有利と考えて,そう取り決めるように固執し,交渉が進まなくなるということも現場ではよくあります。

 

 その場合は,第三国の法律にしたり,被告地の法律にしたりといろいろな解決策を講じることになります。

 

 それでも準拠法が定められない場合に,準拠法の定めをあえて置かないということも全くないわけではないかもしれません。

 

 ただ,仮に自社の希望通りの準拠法にならなくとも,規定していないことは非常にリスクが高いので,通常は,どこかの国の法律で合意しておくことになるでしょう。

 

 交渉が平行線となり困ったときは,準拠法と裁判管轄や仲裁合意はセットで考えられることも多いので,裁判管轄や仲裁地という紛争解決の手段をどうするかを先に議論して,それに合わせるという発想で交渉しても良いでしょう。

 

 司法制度や仲裁制度が成熟していて,きちんと機能している国を選ばないと,そもそも準拠法を定めても意義が薄れてしまうこともあるからです。

 

 このように,英文契約書では準拠法をきちんと定めて,不透明な国際私法による解決をしなければならないという事態を回避することが望ましいといえるでしょう。

 

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