英文契約書の相談・質問集136 英文契約書に全部大文字の条項があるのはなぜですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書に全部大文字の条項があるのはなぜですか。」というものがあります。
よく見かけるのは,商品の売買契約や,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの免責条項(No Warranty/Disclaimer/Limitation of Liability)においてです。
とりわけ「Merchantabilityやfitness for a particular purposeについて売主は保証するものではない」という内容の免責条項がすべて大文字になっていることが多いです。
これは,主としてアメリカの統一商事法典,Uniform Commercial Code(UCC)の内容の影響を受けて,大文字で記載されていると理解して良いかと思います。
簡単にいうと,UCCにおいて,merchantabilityとfitness for a partucular purposeについて売主が免責されると規定するには,そのことが目立つように記載しなければならない(目立たない場合は免責の効果が得られない)とされているため,大文字で免責規定が書かれているのです。
なぜ免責すると記載されるのかというと,免責を明言して規定しないと,上記の点を売主が買主に「黙示的に(implied)」保証したことになるとUCCでは定められているからです。
ちなみに,英国法でも,黙っていると一定の要件の下,merchantabilityやfitness for a particular purposeを保証したことなります。
また,ウィーン売買条約(国際物品売買契約に関する国際連合条約:CISG)でも,黙示の保証として「商品適格性(merchantability)を有すること」が定められていますので注意して下さい。
なお,「黙示的に(implied)」の対義語は,「明示的に(express)」です。契約書に明文で保証(warranty)を記載する場合は,明示的保証(express warranty)といいます。
Merchantabilityは,「商品適格性」などと訳され,要するに,その製品が通常の用途に適合しており,通常備えているべき品質・性能を備えていることというような意味です。
Fitness for a particular purposeは, 「特定目的適合性」などと訳され,製品売買であれば,買主がある目的でその製品を使用したいがために購入したとして,その目的に使用できるという意味です。
ただ,前述したとおり,これらの免責を目立つように記載するように要求しているのは主としてアメリカのUCCですので,準拠法がアメリカになっていない場合,特にこれに従う必要はないということになります。
もっとも,実際には,準拠法にかかわらず,merchantabilityやfitness for a particular purposeの免責については,大文字や太字などで書かれていることが多いです。
理由としては,免責規定ですので,目立つようにして逆に問題になるということは通常はないでしょうし,準拠法によっては,目立つように記載するよう要求されているのであるから,統一的にそうしておこうということなのかもしれません。
さらに,merchantabilityやfitness for a particular purposeの免責以外の免責規定,例えば,結果損害(consequential loss)や間接損害(indirect loss)などの免責規定についても,同じように大文字で書かれていることもあります。
これも,大文字にして問題になることはなく,むしろ注意喚起すべき条項なのでそのほうがむしろ望ましいと考えられ,免責規定全般を大文字にしているということなのかもしれません。
本来は大文字にしなくとも効力が否定されるということはないはずの条項ではあるわけです。
このように,大文字にされている理由は,アメリカのUCCの規定が背景にあるということになります。
前述したとおり,本来は大文字で記載しなければならない場面は限定的なのですが,慣習的に,広く大文字にする傾向があるということになります。
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