英文契約書の相談・質問集152 契約解除するには事前の催告が必要とすべきでしょうか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約解除するには事前の催告が必要とすべきでしょうか。」というものがあります。
契約書には,通常,当事者が債務不履行(契約違反)をした場合に,債務不履行をされた当事者は,契約を解除できるという規定(Termination with Cause Clause/解除条項)が記載されています。
契約書は,各当事者の義務が書かれていることが普通で,何らかの契約でどちらか一方だけが義務を負っているということは考えにくいです。
そもそも,英米法の考えでは,法的拘束力がある契約を結ぶためにはconsideration(約因)というものが必要で,当事者双方が対価関係にある何らかの義務を負っていないといけないとされています。
そうすると,債務不履行をされた当事者としては,相手が義務を果たしていないのに,自分は契約書に記載された義務を負い続けるということでは,不合理でアンフェアであると考えるでしょう。
こうした場合に備えて,もし契約違反をされた場合,契約違反をされた当事者は,自己の契約上の義務から免れることを主目的として,契約を解除することができると契約書に定めることが多いわけです。
この契約解除権には,大きく分けて,2種類のパターンがあります。
一つは,相手の契約違反があった場合に,その契約違反をしたということだけをもって直ちに解除できるという解除権です。
これを,無催告解除権と呼んでいます。
もう一つは,相手が契約違反をした場合,それだけでいきなり解除はできず,いったん,相手に対し契約違反の状況を一定期間内に是正するように求めて,一定期間内に是正しなかった場合にはじめて契約解除ができると定めるパターンです。
こちらは,催告解除権と呼ばれています。
この2種類の解除のパターンのどちらを選択するのが妥当でしょうか。
これは,ケース・バイ・ケースということになります。
例えば,商品の売買契約(Sales Agreement)や販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,より多くの義務を負っているのは,売主ということになります。
買主(Buyer)や販売店(Distributor)は,基本的な義務は商品の代金を払うということであり,それ以外には目立った義務を負っていません。
これに対し,売主(Seller)やサプライヤー(Supplier)は,注文された商品の種類と数を間違いないように準備し,商品の品質もきちんと保証された状態にして,納期までに商品を引き渡す義務を負っていて,より高度で複雑です。
そうすると,契約を解除するという場面を考えたときに,解除されると主張される可能性が高く,その場合にすぐに解除されてしまうと不利益を受けるおそれが高いのは,買主(販売店)よりは売主(サプライヤー)のほうであると考えられます。
買主は,代金を払う義務が中心ですので,自身の財務状態が障害になる可能性があるくらいで,義務の履行が難しいことはありません。
つまり,財務状態に特に問題がなければ,買主が自分の義務を履行できないという状況はあまり考えられません。
反対に,売主のほうは,義務の内容も買主よりは難しい内容ですし,やらなければならないことも多いため,何らかの事情で義務の履行が難しいという状態になることが,買主側よりもありえます。
例えば,うっかり品数を間違えてしまった,商品の種類を間違えてしまった,工場の生産能力を見誤って過剰に受注してしまい納期までに納品できないなど数多くの状況を想定できます。
このような場合に,売主にうっかりミスがあったので,買主が,「全てご破産,契約解除だ。」とすぐに主張できるとすると,売主は,商品を生産・準備するなどのコストをかけているため,不利益が大きくなってしまいます。
何より,これではあまりに売主に酷なため,売主が用意に取引に入ってくれないという事態を引き起こしかねません。
このような場合に備えて,契約を解除するためには,いったん,「あなたは契約に違反していますよ。〇〇日以内にきちんと履行して下さい。さもなければ契約を解除しますよ」という警告=催告を与えることを必要とするわけです。
これにより,売主のうっかりミスなどにより,いきなり契約が解除されるという自体を防げます。
上記の例のように,売買契約(Sales Agreement)や販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,売主側の立場では,いきなり解除されるのは不利益なことが多いので,売主からすれば,契約解除には催告が必要だとしたいと考えるかもしれません。
他方で,買主からすれば,何か問題があれば,すぐに自分の代金を支払う義務から逃れて,問題のある売主との関係は直ちに断ち切りたいと考えるかもしれません。
そうすると,買主からすれば,無催告解除を定めたいということになります。
さらにいえば,売主としても,買主の代金支払いが前払いのような場合には,買主が期日までに代金を支払わなければ,そのような信用できない買主との契約は直ちに解除して,契約関係から離脱したいと考えるかもしれません。
このように,当事者の立場や,義務の内容や数などによって,無催告解除にしたほうが良いのか,催告解除にしたほうが良いのかは,変わってきます。
また,準拠法によっては,無催告解除は認められず,契約違反を理由として解除するためには,解除の前に催告を必要とするとしていることもあるので,その点も注意しなければなりません。
これは,契約書全般にわたっていえることですが,一般的にどうかという視点も有用ではあるものの,前述のように,常に具体的に自社の立場で考えてみるということも大切です。
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